野党合流構想が頓挫 立憲民主の「枝野一強」揺らぐ

永田町政態学

 立憲民主党の枝野代表が昨年12月に呼びかけた国民民主党との合流構想が頓挫した。


 まだ正月気分も抜けきらない1月9日夜、枝野氏は国民の玉木代表を東京都内のホテルの中国料理店に招いた。代表同士の直接交渉で、行き詰まっていた合流協議を動かそうと、看板メニューの北京ダックをつまみながら4時間も話し込んだ。しかし、立民による吸収合併を説く枝野氏に対し、玉木氏は党名変更などを求め、折り合えなかった。 「合流方式や党名という根幹部分について党首がガチンコでやりあうなんて稚拙すぎる。結局、残ったのは徒労感とバラバラ感だけ」と立民関係者は嘆く。


 翌10日の正式な党首会談で、玉木氏は協議を白紙に戻すことを提案した。枝野氏らが約3時間もかかって説得したが、結局、物別れに終わった。


 党の合流という重い課題をめぐって話し合いを重ねた2人だが、信頼関係を築くことはできなかったようだ。当選9回の枝野氏は当初から周囲に「玉木君がいかに覚悟を決めるかだ」と話し、先輩風を吹かせていた。当選4回の玉木氏が面白いはずはない。


 10日の党首会談についても双方の言い分は食い違う。枝野氏周辺は「玉木氏が唐突に打ち切りを持ち出した」と解説するのに対し、玉木氏は「合意まではしない約束だったのに、いきなり『今ここで決断しろ』と迫られたので『なら打ち切りだ』となった」と周囲に語る。


 21日に合流の先送りが正式に決まると、立民幹部は、「決断できないリーダーの典型だ」「『玉木おろし』が起きるぞ」などと玉木氏を非難した。だが、国民内で玉木氏を代表から引きずり下ろそうとする動きはみえてこない。安倍首相主催の「桜を見る会」をめぐる公私混同疑惑や新型コロナウイルスの感染拡大で衆院解散・総選挙が遠のいたとみられるからだ。


 両党が合流を目指した背景には、次期衆院選をめぐる双方の「下心」があった。選挙資金不足に悩む立民は、旧民進党から巨額の資産を引き継いだ国民のカネが欲しい。一方、選挙基盤の弱い国民の衆院議員は、党の支持率が比較的高い立民に入って当選確率を少しでも上げたい─。一時は首相が早期の解散・総選挙を仕掛けてくるという観測もあり、両党ともに合流した方がプラスという見方が強かった。ところが、肝心の衆院選が遠のき、推進力は失われた。


 国民内では、合流に否定的だった参院議員を中心に、「対等な立場をよく守った」と玉木氏をたたえる声も上がる。


 立民幹部が玉木氏をことさらに非難するのには、批判の矛先を枝野氏から逸らす思惑もうかがえる。枝野氏は結党以来、「永田町の合従連衡にはくみしない」と野党再編を否定してきたが、昨夏の参院選が振るわず軌道修正した。「変節」してまで踏み切った合流協議で失敗した傷は浅くない。


 実際、2月6日に開かれた立民の両院議員懇談会では、報道陣の退出後、複数の議員から「合流協議の経過が分からなかった」「ボトムアップの政治を目指すのに、党の運営が全くボトムアップじゃない」と執行部批判が相次いだ。立民は、結党を主導した枝野氏に大きな権限が集まり、福山幹事長や安住淳国会対策委員長らごく一握りの幹部が党運営を差配している。ベテランの一人は「鬱憤が噴き出したのだろう」と語る。


 れいわ新選組の山本代表への対応をめぐっても、枝野氏への不満が高まっている。山本氏は共闘の条件に「消費税率5%」を挙げるが、枝野氏は消極的だ。減税で合意できない場合、山本氏は独自候補を100人規模で擁立する構えで、立民の中堅若手は「れいわに票を奪われる」と戦々恐々とする。


 合流構想は頓挫し、野党の「多弱」状態に変化をもたらさなかった。だが、その余波は立民内部でじわじわと広がっている。(悟)


(『中央公論』2020年4月号より)

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