2023年12月号【編集長から】

4年ぶりに訪れた北京は一年で最も過ごしやすく美しい「金秋十月」の季節を迎えていた。日中は雲一つない青空の下、薄手のシャツ一枚でちょうどいい。長安街を歩くと2両連結の路線バスが停留所に音もなく滑り込んできた。ぴかぴかで丸っこい車体の側面には「電動車」のマーク。2010年代、北京に駐在していた時に利用したバスは武骨でよく揺れ、轟音と黒煙をまき散らしながら走った。街と空気の浄化は着実に進んでいる。

★今回の滞在中に日本人がスパイ容疑で逮捕されたことが明らかになり、東京電力福島第一原子力発電所からの処理水放出以降、北京の日本大使館には115千件、10月下旬までに計100万件の迷惑電話がかかっていると知った。気が重くなる話の一方で、SNSでは中国でも長く活動した谷村新司の死を悼む投稿が続き、再会した友人は「昴」を中国語で口ずさんだ。別の友人はまだ蠢いている上海蟹を大量に取り寄せて自宅で蒸し上げ、ふるまってくれた。日本産水産物の禁輸で現地の寿司屋は大打撃だが、客の大半は富裕層である。中国14億人民の大多数は共産党の決定とは無縁の生活を送っている。日本にいると忘れがちな感覚を取り戻せたのは良かった。

★本号で小沢一郎ら野党三氏に政権戦略を質した。日本も政治と距離を置く大多数の有権者の動向が鍵だ。

編集長:五十嵐 文