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人はなぜ孤独に苦しむのか? 中野信子✕木原佑健

中野信子(脳科学者)×木原祐健(僧侶)
中野信子氏(左)✕木原佑健氏(右)
 不安定さが増す時代。孤独は人の心を苛み、時に怒りへと転じて暴発する。なぜ人は孤独を感じ、何が人の怒りを増幅させるのか? 脳科学者の中野信子さんと、神谷町・光明寺の僧侶・木原祐健さんが語り合った――。(『中央公論』2021年7月号より抜粋)

孤独を不安に感じる人間の本能

木原 以前から孤独の社会的な問題については議論されてきましたが、最近はコロナ禍もあって、孤独や孤立への対策が一段と検討されるようになりました。「一人である」ことには、ポジティブな部分もあれば、そうでないと感じることもあると思います。

 私が大学を卒業した頃は就職氷河期で、就職できずにどうやって生きていこうかと迷っていた時期が長く続きました。その頃に中野さんと初めてお会いしたのですが、当時の私には、「取り残された」「しかるべきところに自分がいない」という強迫観念がありました。家族とは仲がよかったし、親もとにいたので孤立してはいなかった。社会的なリソースも利用できていました。状況を見れば自分一人ではないことはわかっていましたが、淋しくないかと言われれば、そうではなかった。

 中野さんは著書の中で、自分で選択する孤独もあれば、排除されて陥る孤独もあると書かれていましたが、自分の経験からも共感できますし、社会的な状況によって孤立に追い込まれる方も多いだろうと思います。

中野 木原さんに最初にお会いしたのは僧侶になる前ですから、もう二〇年ほど前になります。当時から「この人は世の中に適していないんじゃないか」と人に感じさせるところがありましたね。二〇〇九年に仏門に入られましたが、人前に出て説法をという感じではなく、どちらかというと相手の話に静かに耳を傾けるというタイプの僧侶になられました。傾聴にはずっと関心をお持ちで、いまもお寺で傾聴の日を設けていらっしゃいますね。やはり最近は、傾聴を求めて来られる方に孤独を訴える人は増えているでしょうか。

木原 増えていますね。ただし、単純に孤独だというよりも、家族の中にいても、あるいは夫婦間でも話が通じないといった孤独感があるようです。コロナ以降はオンラインでも傾聴活動をしていますが、例えば、ある女性は洗面所の洗濯機の上にスマートフォンを置いて、「ここしか自分がいる場所はない」とおっしゃっていました。

 社会的にはしっかりした立場にいたり、とても頑張っている方であっても、孤独感やままならなさを感じている人が多いように思います。

中野 私は一人でいる時間が必要なタイプなので、むしろ、そのための時間や場所を確保しているくらいです。しかし、人間という種の性質を巨視的に見てみると、不完全な社会性を持ち、有性生殖も必須です。一個体だけ、つまり完全なる「個」のみで長い年月を生物種として生き延びることはできず、少なくとも種の存続にもう一個体が必要なのです。

 また、肉体面や、発達に要する時間の異様な長さを原因とする種としての脆弱性から、生き延びるために「個」であるより「群」であることのメリットが極めて大きい。そのため、個になると、脳がアラートを鳴らす仕組みになっています。それが、私たちが感じる淋しさだったり、漠然とした不安感の正体です。

 私のように一人でいることを好む人間が存在するのは、一人でも生きていけるインフラが整った都会で育ち、何十年も過ごしたことによるものと考えられます。個でいても危険がすぐには迫ってきませんから、ネガティブな感情が生じる仕掛けがすぐにはオンにならない。テクノロジーの発達によって、都市部では一人でいても死なない機構が整えられているのです。踏み込んで言えば、現代の都市社会は、一人になりたい欲求を、助長する社会なのかもしれません。しかし、本来の種としての性質は、そう簡単には変わらない。なので、危機的な状況になると一人でいるとよくないと感じるスイッチがオンになることがあります。パンデミックはまさに危機的状況です。また、大地震や洪水、戦争が起きるかもしれない状態になると、個であることの危険性を感じる仕組みが、作動する方向に圧がかかる。それが現在だと理解しています。

 木原さんがかつて抱いていた不安感や孤独感は、どのように変わっていったのでしょうか。

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