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鈴木涼美 権力者が「わきまえる女」を好きなのは当たり前、女性たちの戦いの核心はどこにある(斎藤美奈子『モダンガール論』を読む)

第3回 100年越しの女の味付け(斎藤美奈子『モダンガール論』)
鈴木涼美
『モダンガール論』(斎藤美奈子著/文春文庫)
キャバクラやアダルトビデオなどの「夜職」、新聞記者という「昼職」、両面から社会を見つめた作家・鈴木涼美さんの書評エッセイ。一日一日を生き延びる糧となった作品を紹介していきます。
連載第3回は、1994年に『妊娠小説』で文芸評論家としてデビュー、『文章読本さん江』(小林秀雄賞受賞)ほか、多彩な評論活動を続けている斎藤美奈子さんが2000年に刊行した『モダンガール論』を取り上げます。

「#わきまえない女」のハッシュタグ

「Every generation Blames the one before」と歌ったのはジェネシスのベーシストだったマイク・ラザフォードが結成したMike+The Mechanicsですが、若者が大抵反発心を持って真上の世代を否定したがるのはごく自然なことに思えます。そして大人の方もまた、自分らと違う価値観を作り上げようとする真下の世代を、ワカッテナイ奴らだと戒めたくなるものです。
 たとえば女子高生が、過剰なほど着飾って不自然なメイクを施し、大人と社会に中指立てつつ、自分らの既得権益を謳歌しようとしたギャル世代から見ると、そつがなくおしゃれで洗練された今の若い女の子たちは少々つまらない。おばさん臭いのを自覚しつつ、「そんな、いくつになってもできるような格好を十代からしちゃって勿体ない」などとぼやきたくなります。
 学生運動が最高に盛り上がった季節がすぎ、70年代に入ると若者は、上の世代から三無主義なんて呼ばれながらシラケを装い出しましたし、フェミニズムが話題となった後にはネオ保守女子だとか、ポストフェミとか言われる女性たちが登場しました。ブラジル/アルゼンチンやドイツ/フランスなど隣国は基本的に仲が悪いというのは定説ですが、世代も隣同士となるとやはりいがみ合うのが一般的です。
 2021年が明けてしばらくすると、SNSで「#わきまえない女」というハッシュタグが散見されるようになりました。直接的にはもちろん、五輪組織委の会長だった森喜朗の「女性がたくさん入っている会議は時間がかかる」などという一連の発言に対する抗議として拡散されました。森氏はJOCが全理事の40%を女性にすることを目標にしていることにやや不満があったのか、上記のような発言をした上で、「私どもの組織委員会に女性は7人くらいか。7人くらいおりますが、みなさん、わきまえておられて」と言いました。この「わきまえて」いる女性ならいても構わないと言う趣旨の発言に対して、ハッシュタグによる抗議活動が始まったようです。

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