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鈴木涼美 夜のオネエサンのお金事情、財布に800円でも嗤える明るさ(内田百聞『大貧帳』を読む)

第4回  夜のオカネと昼のオカネ(内田百聞『大貧帳』)
鈴木涼美
『大貧帳』(内田百聞著/中公文庫)
キャバクラやアダルトビデオなどの「夜職」、新聞記者という「昼職」、両面から社会を見つめた作家・鈴木涼美さんの書評エッセイ。一日一日を生き延びる糧となった作品を紹介していきます。
今回は、小説家であり、『阿房列車』『ノラや』など名随筆家としても知られる内田百聞(*タイトル、本文ともに「聞」をあてたが正しくはもんがまえに「月」)が、借金とお金にまつわる話を書いた『大貧帳』を取り上げます。

AV嬢時代と会社員時代の金銭感覚

 AV嬢をあがった時も、新聞社を退社した時も、貯金なんて1円もなかったという話をすると大抵の人はちょっと驚いて、お金遣いが荒いんですねというような顔をされます。本人的には高価な品物にそれほど興味があるわけでもなく、ブランド品を買い漁る趣味も、毎日のように美食家たちと連れ立って高い食事やワインを嗜む趣味も別にありません。個人的には貯金というのはエルメスのバーキンと同じようなもので、それを欲した人のもとには運が良ければあるけれど、欲していない人のもとには基本的にはないものだと思っています。

 ただ、AV嬢をあがったときに貯金がないというのと、新聞社を退社したときに貯金がないというのとでは、人によっては受ける印象が違うようで、なるほど確かに自分としても、AV嬢の時と会社員の時とではオカネの感覚が違ったようには思えます。ちなみに、額面上の金額というのは年収にしてしまうと二つに大差なく、気まぐれに出勤するキャバクラの時給やお客からのチップがある分、夜に暮らした時の方が少し収入が高いという程度でしかありません。ちなみに新聞記者時代はそれはそれで、夜職時代に比べて親や親戚との関係が良好だったり、途中からは会社の仕事以外の書きものをすることがあったりして、会社の給料だけが収入源というわけではなかったので、やっぱり総じて入ってくる現金に大きな差があったわけではないような気がします。ちなみに、AV女優をしていたのは3年くらいだけど、水商売も含めた夜職で稼いでいたのが約6年、新聞社に在籍したのが5年半なので、在職期間も似通っています。

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