新書大賞2021 大賞受賞・斎藤幸平先生 講演動画を公開中!

鈴木涼美 オンナノコとオンナの間にある、センシティブで荒々しい時間(『"少女神"第9号』を読む)

第6回 女の子の殻をさらに包む強力な殻(フランチェスカ・リア・ブロック『“少女神”第9号』)
鈴木涼美
『“少女神”第9号』(フランチェスカ・リア・ブロック著・金原瑞人訳/ちくま文庫)
キャバクラやアダルトビデオなどの「夜職」、新聞記者という「昼職」、両面から社会を見つめた作家・鈴木涼美さんの書評エッセイ。一日一日を生き延びる糧となった作品を紹介していきます。
今回は、ロサンゼルス・ハリウッド生まれ、カリフォルニア大学バークレー校在学中に初めて書いた小説でデビュー、その後も話題作を発表し続け、全米の若者に熱狂的な支持を受ける作家、フランチェスカ・リア・ブロックの短編集を取り上げます。

13歳になる夏のこと

 私が初めて眉毛を抜いたのは、13歳になる直前、ヒットチャートではしつこくロンバケ(ロングバケーション)の主題歌が流れていた頃でした。人気歌手などの影響で細眉が大流行していたこともあり、中学に入ったばかりの友人たちの中にはすでに眉毛を整えて通学している子が数人いて、乗り遅れまいと思ったのが動機だったのだろうと今から振り返って推測しますが、最初は毛抜きの存在を知らず、ピンセットで抜こうとして苦戦し、夕方帰ってきた母が化粧箱から資生堂の毛抜き用ニッパーを出してくれました。母は彼女の時代の名残りなのか好みなのか、太いままの眉をさらにパウダーで少し太くするような化粧をしていたので、ニッパーのビニールのケースは普段使われていないのが明らかなほど薄汚れていたのをよく覚えています。

 服を母とではなく友人と買いに行くようになったのも、ソニープラザで友人と初めてメイベリンの色違いの口紅を買ったのも、制服の長いスカートを毎日ベルトを使って短くするのが面倒になって近所の仕立て屋に持ち込んで裾上げしてもらったのも、dos(ディー・オー・エス)が出演していたティセラのCMを見て家族と違うシャンプーを使うようになったのも、ホックのないコットンのブラジャーをつけ始めたのも、背の高い友人たちがとっくに迎えていた初潮がようやく私の手元にやってきたのも、ちょうどその頃です。夏休みに入ると、極限まで細く抜いてしまった眉毛の隙間を埋めるアイブロウ鉛筆や、下向きの短いマツゲを引っ張りあげるビューラーや、真っ黒で横に広がる髪を簡単な手順で脱色できるブリーチ剤を買い込んで、大した用事もないのに友人たちと外で待ち合わせをしては、お互いの外見の変化に敏感になりながら、『プチセブン』などを回し読みして、脚のムダ毛はどうしているかなんて話に花を咲かせ、まだとても買えないブランドの財布について、プラダとヴィトンならどっちがいいかなんて真面目に議論していました。

1  2  3  4