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鈴木涼美 シニシズムの代償を払ってなお、言葉で切り刻んだ空気の隙間から見る世界は魅力的だった(『夜になっても遊びつづけろ』を読む)

第7回 夜が過ぎても生き残る可能性があるなら(金井美恵子『夜になっても遊びつづけろ』)
鈴木涼美
『夜になっても遊びつづけろ 金井美恵子エッセイ・コレクション[1964−2013] 1』(金井美恵子著/平凡社)
キャバクラやアダルトビデオなどの「夜職」、新聞記者という「昼職」、両面から社会を見つめた作家・鈴木涼美さんの書評エッセイ。一日一日を生き延びる糧となった作品を紹介していきます。
今回は、1967年に19歳で「愛の生活」が太宰治賞次席を受賞し作家デビュー、その後、小説、詩、エッセイ、評論と、ジャンルを横断した創作活動を続ける金井美恵子さんの第一エッセイ集を取り上げます。

38歳という年齢は生存者の証

 最近、生き延びた、という感覚が日に日に強くなった気がします。若い頃に比べれば危険な遊びなどしていないし、何か大病を患ったわけでも危険な場所から帰還したわけでもないのだけど、それでも38歳という年齢が私には生存者の証のように響いて仕方ないのです。私の好きなセックス・アイコンたちに早逝した人がとても多いのも一因のような気がします。36歳になった時、ついに最も好きな映画スターであるマリリン・モンローが死んだ年齢になったのだとしみじみ思ったのですが、他にもジーン・ハーロウはたった26歳でこの世を去っているし、ポルノ女優出身だった飯島愛が遺体で発見されたのは36歳のクリスマス・イブ、ピンク女優出身の鈴木いづみが首を吊ったのも36歳の時、一時代を築いたポルノ女優の林由美香が死んだのも35歳の誕生日前日でした。同時代を生きたポルノ女優でも、印象に残っている人や少し親交があった人には若くして死んだ人が少なくないのです。日本のAV産業は、ポルノ女優になってもなかなか仕事が回ってこないほど多くの女性たちを抱えているので、もちろん、死なずに生きている人の方が全然多いとはいえ、30代そこそこの似たような年齢で夭折した名前は印象に残ってしまうものです。

 だから、生き延びた、という感覚と同じくらい、生き残ってしまった、という感覚も強いのかもしれません。別に死にたいと思ったことはないけれど、死んで崇高になりきれなかった凡庸な自分に、どこか退屈さを感じるのも事実です。性や色を売るとき、誰でも簡単に売り物になるのは10代、比較的苦労せず売り物になるのは20代、美貌や技術がものをいうのが30代、そしてどんなに器量や技術があっても40歳が一つの壁になるような、側から見ればくだらない、しかしその場にいた者なら実感としてあながち嘘でもないと思える謂われがあります。時代を代表するセックスシンボルが40歳を待たずに命を落とすのであれば、何かそこに凡人にはない崇高さを感じるし、潔く生を断ちきれない者はかつて世界の夜を賑やかした身体を抱えて、はったりなく心ならずとも生きていかなくてはならない。たとえ自分を自分たらしめると信じていた価値が剥ぎ取られた姿がみっともなかったとしても、そしてそれと同じ価値が二度と手に入らないことをこれ以上ないほど知ってしまったとしても、日常を積み重ねるのです。

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