東京大学からオックスフォード大学に移った社会学者が、日本の教育を客観的に分析した書である。
とりわけ傾聴に値するのは、日本が長年にわたり続けてきた教育改革は、帰納型思考の英国と異なり実態把握(帰納のための知識の基盤)を欠き、不十分な演繹型思考回路で組み立てられ現場に下ろされている、との指摘である。
その特徴として、欠けているもの(欠如態)を新たに作り出さなければならないという発想が、理想主義に彩られた改革を生み出す点にあり、これが2019年大学入試大混乱につながったとしている。
欧米の真似をしているつもりの日本の教育は、根源的な知の理解のないまま現在に至っていることを説得的に論じている。
◆苅谷剛彦(かりやたけひこ)
オックスフォード大学社会学科およびニッサン現代日本研究所教授。1955年東京都生まれ。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了、ノースウェスタン大学大学院博士課程修了。Ph.D.(社会学)。放送教育開発センター助教授、東京大学大学院教育学研究科助教授、同大学院教授を経て2008年より現職。著書に『大衆教育社会のゆくえ』(中公新書)、『教育の世紀』(弘文堂、サントリー学芸賞、増補版・ちくま学芸文庫)、『階層化日本と教育危機』(有信堂高文社、大佛次郎論壇賞奨励賞)、『アメリカの大学・ニッポンの大学』『イギリスの大学・ニッポンの大学』『オックスフォードからの警鐘』(以上、中公新書ラクレ)、『追いついた近代 消えた近代』(岩波書店、毎日出版文化賞)など多数。
苅谷剛彦(オックスフォード大学教授)
教育改革をその前提から問い直し、神話を解体してきた論客が、コロナ後の教育像を緊急提言。オックスフォード大学で十年余り教鞭を執った今だからこそ、伝えたいこと。 そもそも二〇二〇年度は新指導要領、GIGAスクール構想、新大学共通テストなど、教育の一大転機だった。そこにコロナ禍が直撃し、オンライン化が加速している。だが、文部科学省や経済産業省の構想は、格差や「知」の面から数々の問題をはらむという。 以前にも増して地に足を着けた論議が必要な時代に、今後の教育を再構築するための処方箋をお届けする。