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「認知バイアス」がある限り、あなたも陰謀論を信じてしまうのかもしれない

成績の悪い人ほど自分を過大評価するのはなぜか
内田麻理香(科学技術社会論研究者)
あなたもいつの間にか陰謀論に染まってしまうかも?(写真提供:写真AC)
新型コロナウイルスやワクチンに対するものに典型だが、今やインターネットには出所や真偽の不確かな「陰謀論」が溢れている。科学技術社会論研究者である内田麻理香によれば、荒唐無稽とも言える陰謀論が信じられる背景には「認知バイアス」の存在があり、それがある限り、誰でも陰謀論に染まる可能性があることをもっと警戒するべきと言う。(『中央公論』2021年5月号より)

WHOが注意を促したインフォデミックとは

2020年、世界保健機関(WHO)は、新型コロナをめぐり誤った情報がインターネット上を通じて拡散され、悪影響を起こすと注意を促した。

WHOはこれをインフォデミック(情報〔インフォメーション〕+大流行〔エピデミック〕)と呼んだ。

新型コロナに関してだけでなく、真偽の不確かな情報はインターネット上にあふれており、これは、今年1月の米連邦議会議事堂乱入で注目を集めた、Qアノンなどの陰謀論でも確認できる。

エコーチェンバーと認知バイアス

ソーシャルメディアの発展により、閉鎖的なコミュニケーション空間で、意見や信念が過激で極端になり、多様な考え方を受け入れられなくなることを「エコーチェンバー」現象と呼ぶ。

ソーシャルメディアによって分断が可視化された状況を説明する際に用いられるのが、このエコーチェンバー現象であるが、陰謀論を支える背景としても検討することができる。

陰謀論は信じない人にとってみれば荒唐無稽に思える。しかし、陰謀論の信奉者が特殊なのではなく、人間の生まれつきの認知のメカニズム上、誰もが陰謀論の陥穽(かんせい)にはまる可能性がある。人間が自分の信念や周囲の状況を優先して判断し、記憶の誤りや統計学的な誤りを犯すことを、「認知バイアス」と呼ぶ。

自分に都合のよい情報ばかり集めてしまう「確証バイアス」は認知バイアスのひとつであるが、これはまさにエコーチェンバー現象に関係していることがわかるだろう。

成績の悪い人ほど自分を過大評価するのはなぜか

近年、注目されている認知バイアスとしては、ダニング=クルーガー効果が挙げられる。これは、「あまりに愚かすぎて自分が愚かであることを知らない」ことで、能力に乏しい人物がしばしば自分の能力不足を認識できないことに関する認知バイアスだ。

ダニングとクルーガーは、45人の学生に試験を受けさせ、彼らにその試験の結果が他人と比較して、どれくらいに位置するかを自己評価してもらう実験を行った。

その結果、成績が上位の人は自分のことをそれほど評価しないが、成績が下位の人は自分を高く評価していることがわかった。彼らは、問題を正解したか否かについては正しく認識していたが、全体の中での自分の順位を見積もることはできなかったのだ。

つまり、成績の悪い人ほど自分を過大評価するのである。このダニング=クルーガー効果を知って、我が身をふり返りぞっとする人もいるだろう(私はそうだ)。

なお、このダニング=クルーガー効果は、ユーモアのセンスについても観察されている。要は、ユーモアセンスがない人ほど、自分にユーモアセンスがあると見なしているようだ。

陰謀論に対する「ワクチン」とは

さまざまな認知バイアスの研究からわかることは、人間は不快な感情を避ける認知のクセがあり、自分は賢いと思うほうが気分がよいということだ。従って人間は、自己批判をすることが難しい。

私たちがもつ認知バイアスは、かつては他人との直接の交流によって改善されていたのかもしれない。しかし、近年のメディア環境では反対意見から隔絶された環境を作ることもできるため、これらの認知バイアスはますます増幅させられている。

私たちは、この認知バイアスからは逃れられない。だから、陰謀論の信奉者を愚かだと見なすのではなく、自分も陰謀論を信じてしまう可能性があることを警戒したほうがよいだろう。

陰謀論への対抗は、一人ひとりの心がけでは限界があるので、SNSのプラットフォーム上のメカニズムを改善するほうが現実的と思われる。しかし、認知バイアスの存在を意識することこそが、陰謀論に対するワクチンとして機能するはずだ。

中央公論 2021年5月号
オンライン書店
内田麻理香(科学技術社会論研究者)
〔うちだまりか〕
東京大学教養学部特任准教授。博士(学際情報学)。専門は科学コミュニケーション、科学技術社会論。著書に『科学との正しい付き合い方』『面白すぎる天才科学者たち』など。

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