やさしく、おもしろく
歴史を語りたい
歴史を楽しむ−−。
私自身がそうありたいと思っていますし、テレビの歴史番組に関わっていたときも、多くの人に歴史の楽しさを知っていただければと常に念じていました。
二〇年ほど前、私がニュース番組を担当することになったとき、作家の故井上ひさしさんに、その報告かたがた心構えを伺いましたところ、井上さんは後でお葉書をくださいました。そこには次の言葉が書かれていました。
「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをゆかいに、ゆかいなことをまじめに」
以来、どんな番組でも、私はずっとこの言葉を座右の銘としてきました。
たとえば歴史番組のとき、「ゆかいに」を「おもしろく」と私なりに言い換えるとすれば、「やさしく、ふかく、おもしろく」が大切だということです。ただし、「おもしろく」だけでつくってはいけない。ベース、つまり歴史番組なら史料はきちんと押さえておく必要がある。そのうえで、想像の翼をうんと広げる。そのことが歴史をおもしろくするのだ。そう信じて番組づくりにいそしんできたように思います。
NHKの「その時歴史が動いた」は、二〇〇〇年に始まり、昨年三月まで丸九年間続いた番組でした。みなさんのおかげで長寿をいただいたのですが、この番組が大きな支持を得ることができた理由の一つは、歴史を「やさしく、ふかく、おもしろく、まじめに」紹介することで、多くの方々の知的好奇心を刺激することに成功したからではないか、と密かに自負しています。
私は『歴史を「本当に」動かした戦国武将』(小学館101新書)という本を書きましたが、ありがたいことに、予想した以上によく読まれているようです。昨今の戦国武将ブームの影響もあるのでしょう。歴女たちに感謝をしなければいけないと思っています。
専門の歴史学者でもないのに、歴史について語ったり書いたりするのはいかがなものか。そうしたお叱りもあるかもしれません。
この問題については、作家の井沢元彦さんと対談した際、大いに意気投合しました。井沢さんも私も文学部史学科の出身ではありません。では、歴史を専門に学んでいない者が歴史にくちばしを挟んではいけないのかというと、むしろいいことなのではないか。そういう結論になったのです。
医学を修めていない人間が医療行為を行った場合、命に関わることですから法に触れます。ところが、史学科出身でない人間が歴史を語るのは、むしろメリットも多いと思われるのです。
その理由としては次の二つがあります。
・史料至上主義にとらわれず自由な発想ができる
・学閥などのしがらみがなく、ニュートラルな立場で意見を表明できる
学問的な成果は尊重しつつも、自由に想像の翼を羽ばたかせる。そうやって歴史の実像に迫れるのであれば、これはいいことではないかと思うのです。
とりわけ歴史上の人物というのは、誰もが語り、論じて、楽しむべき対象だと思います。
そのモデルケース、というわけでもありませんが、今回は日本史上で最も人気のある三人の天下人とその補佐役についてお話をさせていただきます。
(続きは本誌でお読み下さい)
〔『中央公論』2010年7月号より〕