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新型コロナ・インフルエンザの同時流行でふり返る、日本のナイチンゲール大関和の偉業。「鎌を振り上げて襲ってきそうな村人」の心を動かし、赤痢の集団感染に立ち向かう

明治のナイチンゲール――大関和物語
田中ひかる

村人たちの信頼を得て、赤痢を制圧

 当時、毎年夏になると、全国各地で赤痢の集団感染が発生し、多数の死者を出していた。越後も例外ではなく、県から病院へ、近隣の村の防疫に協力するよう要請があった。看護学校で欧米の最新の感染症対策について学んでいた和は、防疫こそ看護婦の力が発揮できる機会だと確信する。県が用意した馬車に、桶や鋤、消毒用具、雑巾、清潔な手拭い、米俵などを積み込むと、若い看護婦二人をともない、医師に同行した。

 村で巡査、役場の助役、消毒係らと合流し、家々をまわって隔離のための診察を行おうとすると、村人たちから激しい抵抗に遭った。赤痢と診断されれば「死病院」へ隔離され、それでも流行が収まらない場合は、村ごと焼き払われることもあったからだ。

 和は、今にも鎌を振り上げて襲ってきそうな村人たちを前に、自分たちは避病院を改良し、患者たちの回復を助けるために来たので、力を貸してほしいと訴えた。助役は勝手なことをするなと諫めたが、医師は賛成した。避病院への隔離が進まない限り、感染者は増える一方であり、そのためには避病院を改良するほかに方法がない。

 さらに和は、持参した米で粥を炊いてほしいと村人たちに頼んだ。本気で患者を助けようとする和の真摯な態度に、村人たちは協力を申し出る。

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