◆軍事的・経済的な狙いも
「(中国の尖閣諸島への執着は)中国海軍の太平洋進出に向けた戦略の一環になっている」=宮家邦彦・元中国公使(昨年十月二十八日)
玉井 もちろん中国には軍事的な狙いもあるのでしょう。昨年六月の米中首脳会談で、習近平国家主席は「新型大国関係」を提唱しましたが、大きな構図でいえば、日本を外して、太平洋を米中で分割統治しようというものです。幸い米国はこれを肯定しているわけではありませんが。
近藤 経済的な視点からすると、海洋進出の背景には、海洋資源を確保したいという動機もあります。とりわけ中国はエネルギーの大消費国ですから、エネルギー資源はいくらあっても足りないというのが現状。中国国内にはシェールガスが多く埋蔵されていますが、現時点では産出コストが高く、採算が取れない。積極的に海底油田を開発したいという理由もあるわけです。
◆カギ握る日米の協調
「(四月のオバマ米大統領来日時の日米共同声明で)日米関係が強固なものだということを中国が再確認したことは、非常に大きな成果だった」=三ツ矢憲生外務副大臣(五月一日)
玉井 こうした中国の強硬姿勢に対して、日本としては米国と協調してあたる必要があります。米国のオバマ大統領はこの四月、読売新聞による単独書面会見や、その直後の来日時の記者会見で、尖閣諸島に日米安保条約を適用することを明確にしました。これは日本にとって大きかった。集団的自衛権の閣議決定はこのような文脈からも必要で、日本の安全を守ることにつながってくるのです。
「領土・主権を巡る状況は日本にとって極めて厳しくなっている。大変な情報戦になっている」=山本一太領土問題担当相(二月十八日)
玉井 とはいえ、昨年末に安倍首相が靖国神社に参拝したことなどをとらえて、戦後の国際秩序を否定する「歴史修正主義者」だと主張するなど、中国の広報戦略は巧妙です。日本が戦後の世界秩序を否定しているというのは言いがかりですが、そのような揚げ足取りをさせない広報戦略も日本側には必要ですね。
近藤 日本として何ができるか、という話ですが、ちょっと見方を変えて言うと、日本という国には、経済力があるからこそ国際社会で高いプレゼンスを保ってきた面があります。経済的な優位性が失われると外交的にも影響力が薄れてしまう、ということは確かにあるのです。実際、過去のODA(政府開発援助)などで日本に好意的な国はアジアにもまだたくさんある。巧みな外交が必要なのは当然として、日本経済を順調に回復させていくことは、実は中国問題に対処する上でも大切なことなのですね。
「尖閣の問題で中国は激しく攻撃してきたが、結果として中国のプラスにならなかった。中国は日本に対して(門戸を)開いてほしいとなってきている」=衛藤晟一首相補佐官(六月五日)
玉井 日中関係に関しては、中国側に融和の動きがあるとの指摘もありますが、
日中関係悪化の責任を安倍政権に押しつける戦略は変わっていません。もちろん、安倍首相になってから日中首脳会談が行われていないというのは好ましいことではない。首脳会談の条件に「尖閣諸島を巡る領土問題があることを認めろ」などという中国の条件をのむ必要は全くありませんが、今秋に中国で予定されているAPEC首脳会議に向けて、首脳会談を実現させるよう知恵を絞ってほしいと思います。
構成/読売新聞調査研究本部 時田英之
〔『中央公論』2014年8月号より〕