公の場で下ネタ発言 非難を浴びても辞職しない
橋本聖子氏の会長の仕事もすっかり板に付いてきており、森喜朗元会長を巡る騒動も忘れられつつある今日この頃。騒動の発端は森元会長がJOC(日本オリンピック委員会)の臨時評議会で「女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかります」「女性は競争意識が強い。だれか一人が手を挙げて言うと、自分も言わなきゃいけないと思うんでしょうね。みんな発言されるんです」と発言したことでした。これが女性差別的だと問題になりました。日本のみならず海外のメディアも多数この問題を報じましたが、女性差別の問題があたかも「日本だけの問題」であるかのように扱われていたことが気になっていました。
筆者の出身のドイツにも実は「森さん的な発言をしてしまう男性」はいるのです。昨年、Linda Teuteberg氏というFDP(自由民主党)の女性の党幹事長が辞任する際、党首のChristian Lindner氏がお別れの挨拶をしましたが、そのスピーチの中で「リンダと私は過去15カ月間のあいだ、300回ぐらい朝を一緒に迎えました」とあたかも一緒に泊まったかのような言い回しをしました。会場の笑いを受け、同氏は「毎朝ルーティーンとなっていた政治について話していた電話のことだ。君たちが考えているようなことではない」と続けましたが、性的なジョークを言ったことに対する申し訳なさのようなものは感じられず、後日ドイツのメディアやSNS等で女性蔑視だと非難を浴びました。本人は後に謝罪したものの、現在も党首を務めています。
その一方で評論家でジャーナリストのRoland Tichy氏のように女性差別発言が原因で実質的に辞任に追い込まれた人もいます。同氏は長年Ludwig-Erhard-Stiftung e.V.(ルートヴィヒ・エアハルト財団)の会長を務めており、優秀なジャーナリストに与える賞を決定するDJP(Deutscher Journalistenpreis)の審査員でもありました。しかし同氏は自身が発行するマガジンの中で、SPD(ドイツ社会民主党)の女性政治家であるSawsan Chebli氏の将来性と資質について「彼女の取り柄は男性が多いSPDの中でGスポットがあることだけ」と書きました。政治の話には全くそぐわないGスポットという性的な話を書いたことが問題となり辞任に追い込まれました。
ドイツの場合、「公でされる女性差別発言」の中にいわゆる「下ネタ」が含まれていることが多いのが特徴です。この手のジョークはドイツで20世紀の初頭からAltherrenwitz(和訳「老紳士ジョーク」)と呼ばれており、長いあいだ「男性同士が内輪で女性をテーマにした性的ジョークを言う」ことがドイツでは市民権を得ていました。かつてのドイツの職場では男性が決定権を持つポジションにいることが多かったため、職場であっても実質的にこの手の下ネタを含んだ「ジョーク」が許される雰囲気があったのです。
現在のドイツでは多くの職種において女性が増えてきているにもかかわらず、この手のジョークを言う「癖」が抜けない男性が時折おり、たびたび問題になっています。それにしても、ドイツで問題になっているような「公の場で下ネタ発言」と比べると、森さんを庇うわけではありませんが、森さんのほうがまだ品があるのではないかと思ってしまいました。
ただ「日本のほうがマシ」「ドイツのほうがマシ」という結論に満足するのは建設的ではないのかもしれません。男性と女性がともに働いていく上で爽やかで対等な関係を築けることに期待したいです。
サンドラ・ヘフェリン
ヨーロッパと日本の両方で生活をしていく中で、その地の女性がどんな生き方をしているのか、どんな悩みを抱えているのか、など「その国特有の女性の立ち位置」のようなものも含めて「現場」を見てきた著者が、何気ない話をしている中で、それまで意識してこなかった日本と海外の違いを綴りました。 ヨーロッパでは、「美白よりこんがり肌がモテる」「生理の時はナプキンよりタンポン」「ワキ毛は剃らないのにアンダーヘアはゼロ」など日本女性からするとびっくりなことも。 本書で書かれている多様な女性の生き方から、「これは自分に合うな」という好きな部分だけを取り入れ、自分なりの優先順位を決めるヒントを探すきっかけにしてみてはいかがでしょうか