「カンニング不可能」と言われる中国のオンライン入試はどう行われているのか。新型コロナを乗り越え、いち早く成長を果たした決め手は14億人総動員の「人海戦術」だった
AI産業の発展は地方の低賃金労働者に支えられている
中国におけるデジタル社会実装の現状について、ビッグデータ、AIなど、表面的には先端技術をちりばめたようにも見えるが、その実態を見れば、「安価で豊富な労働力」を活かした「労働集約型」のビジネスモデルとなっている。
例えばAI技術では、人手によるアノテーション(タグ付け)が不可欠となっている。
機械学習アルゴリズムは、タグ付きのデータを読み込むことでパターンを認識するため、正確なタグが付いていないデータは、AIは正しく学習することができない。
例えば、学習前のAIは人間の顔の画像を見ても「人」と判断できないため、「目」「鼻」「口」など人間の顔の細かな特徴を人の手で入力する必要があるのだ。
データが増えれば増えるほど、AIは賢くなり、次第に画像が何なのか判断できるようになる。中国のAI産業の急速な発展を支えているのは、地味な学習作業を手がける地方の低賃金労働者なのだ。
同時に、アノテーションは貧困地区の新たな収入源にもなっている。自動配送ロボットやドローンなどを使った宅配サービスも一部では始まっているが、今のところ人に運んでもらった方が早くて安い。
中国で幅広く普及しているデジタルサービスの裏には、「農民工」(農村からの出稼ぎ労働者)というエッセンシャルワーカーの存在がある。
無人化・省人化技術の開発は進められているものの、まだまだ発展途上で、「労働集約型」モデルに頼らざるを得ないのが現実だ。
さまざまなデジタル技術が新型コロナ対策に用いられ効果を発揮したが、感染防止の決め手となったのは、14億人という国民を総動員した、圧倒的なマンパワーによる人海戦術との「合わせ技」だったと言えよう。
※本稿は、『数字中国 デジタル・チャイナ』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
西村友作
新型コロナの震源地・中国はなぜ感染を抑え、プラス成長を達成できたのか? 当局はなぜアリババ集団ら巨大ITへの統制を強めるのか? コロナ禍にあえぐ米欧を横目に、中国はデジタル防疫・経済成長・デジタル金融の三位一体を実現。そこには覇権的な政治体制だけでは説明できない、重要な経済ファクターがある。民間需要を取り込み、政府主導で建設が進む「数字中国(デジタル・チャイナ)」がその答えだ。日本にとってビジネスのチャンスか、経済安保上のリスクか。現地専門家が、ベールに包まれた“世界最先端"のDX戦略の実態を描き出す。
1974年熊本県生まれ。中国・対外経済貿易大学国際経済研究院教授、日本銀行北京事務所客員研究員。専門は中国経済・金融。2002年より北京在住。10年に中国の経済金融系重点大学である対外経済貿易大学で経済学博士号を取得し、同大学で日本人初の専任講師として採用される。同大副教授を経て、18年より現職。著書に『キャッシュレス国家』(文春新書、2019年)がある。メディアでは主に中国のフィンテック、新経済(ニューエコノミー)などを解説。『日経ビジネス』にて「西村友作の『隣人の素顔』――リアル・チャイナ」を連載中。