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教祖は「再臨のイエス」 中国に食らいつく韓国系「邪教」と統一教会

現代中国に広がる新興宗教
安田峰俊

異端的である「新天地教会」

新天地教会は韓国慶尚北道清道郡出身の李萬熙によって一九八四年に創設された、キリスト教系の新宗教だ。現在の本部はソウル近郊のベッドタウン・京畿道果川市に置かれている。

2月23日に韓国の『聯合ニュース』などが伝えたところでは、新天地教会は全世界に「聖殿」と称する教会を72ヵ所、布教機関「シオンキリスト教宣教センター」を306ヵ所(うち海外に200ヵ所あまり)、オフィス103ヵ所、その他の施設1048ヵ所と、合計1529ヵ所もの関連施設を有し、信者数は全世界で253000人に達する。日本にも東京都内をはじめ複数の拠点が存在している。

彼らの教義の特徴は、教祖である李萬煕を「永生不死の再臨イエス」と位置付けている点だ。教義には終末論的な色彩が強く、来たる世界終末の日には李萬煕に従った144000人だけが天国に行けるとされている。信者は救済を受けられる一人となれるよう、積極的に新天地の宗教活動に邁進せねばならない。

もちろん、主流派のキリスト教から見れば、李萬煕を再臨イエスであるとする新天地教会の教義は「異端」である。対して新天地教会の側も、他のすべての教会は神の敵対者サタンに属すると主張。新天地教会は異端的な教義ゆえに信者と家族とのトラブルが多く、教団側が信者に対して家族との縁切りを強制したり、別の教会にスパイを送り込んだりする例も見られたという。

新型コロナウイルスについては、新天地教会の中国武漢市内の布教拠点から韓国に戻った信者がウイルスを持ち込んだとみられている。新天地教会では毎週水曜日と日曜日に信者らが密接して床に坐って一時間半以上も「アーメン」と叫び続ける礼拝をおこない、しかも神様に失礼であるという理由からマスク着用も禁じられていたことで、感染クラスターが発生した。加えて一部の信者が礼拝に参加したことを隠したり、検査を拒否したりしたことで、ウイルスはさらに拡散した。

また、感染発生が明らかになってからも教団側が初動段階で情報を隠し、信者向けに取材対応マニュアルを作って隠蔽工作をおこなっていた不誠実な姿勢も韓国世論の怒りを買った。教団内部では信者に向けて「感染は新天地を潰そうとする悪魔が起こした」「他の教会の礼拝に参加してウイルスをうつし、感染源をカモフラージュせよ」などというメッセージも伝えていたとされる。

結果、韓国における社会的批判の高まりを受けて、32日には教祖の李萬熙が報道陣の前で土下座して謝罪。さらに81日には、李萬熙が感染病予防法違反の疑いなどで韓国当局に逮捕されてしまった。

現代中国の秘密結社 マフィア、政党、カルトの興亡史

安田峰俊

天安門事件、新型コロナ流行、アリババ台頭、薄熙来事件、孔子学院――。激動する国家にうごめく「秘密結社」を知らないで、どうやって現代中国がわかるのか? 清朝に起源を持ちいまなお各国に存在するチャイニーズ・フリーメーソン「洪門」、中国共産党の対外工作を担う「中国致公党」、カルト認定され最大の反共組織と化す「法輪功」など。大宅壮一ノンフィクション賞作家が、結社の行う「中国の壊し方」と「天下の取り方」に迫り、かれらの奇怪な興亡史を鮮やかに描き出す。

安田峰俊
1982年滋賀県生まれ。ルポライター。立命館大学人文科学研究所客員研究員。広島大学大学院文学研究科博士前期課程修了(中国近現代史)。2019年、『八九六四――「天安門事件」は再び起きるか』(KADOKAWA)で大宅壮一ノンフィクション賞・城山三郎賞をダブル受賞。2021年、『「低度」外国人材』(KADOKAWA)が及川眠子賞受賞。他に『現代中国の秘密結社』(中公新書ラクレ)、『さいはての中国』『もっとさいはての中国』(ともに小学館新書)、『中国vs.世界』(PHP新書)など著書多数。
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