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ユーラシアの行方を握るインドの大国外交

日本国際フォーラム上席研究員・広瀬公巳氏が解説
広瀬公巳(ひろせ・ひろみ)

日本の対インド外交

 最後に、外交を多面化し大国としての存在感を増すインドと日本はどのような外交を行っていくべきなのか。日本は印米日の当事者として三角形の視点の中だけに陥ることなく、印中ロの動きから目を離してはならないだろう。

 冷戦の時代、日本は日米同盟を基軸とする自由主義経済を進め、非同盟外交と閉鎖的な経済体制をとっていたインドとは接点を小さくしていた。接近を始めたのはバブル崩壊の時代に入った1990年以降で、日本は経済的苦境を抜け出すための新しい市場や投資先としてインドに焦点をあて、1991年、インドを襲った経済危機でインドの外貨が底を突いた際に日本が支援をしたのを機に、インドも資本や技術を提供する日本との関係を強化する方向に向かった。1998年、インドの核実験実施により関係は冷え込むが、現在は日印首脳が一年おきに互いに相手国を訪れるという関係を維持している。

 日本はインドとの間で二国間の協力を急速に進めているが、今後はユーラシアでの中長期的なインドの役割を十分に考慮に入れた多国間の外交を進めていく必要があるだろう。パキスタン、アフガニスタン、中国といった近隣の国々だけでなく、南アジア、中央アジア、東南アジア、欧州という地域ブロック、アメリカ、ロシアなどの大国プレーヤーのインドとの関係を踏まえておく戦略が求められる。特にアフガニスタンの民主化と安定、エネルギー政策、テロ拡散防止、サイバー情報通信、地球環境などのグローバルなテーマについてインドと手を結ぶことで、日本は広域で有効なユーラシア外交を展開することができるはずである。

ユーラシア・ダイナミズムと日本

渡邊啓貴 監修/公益財団法人 日本国際フォーラム 編

日本外交の新地平を切り拓くためには何が必要か。ウクライナ戦争、アメリカのアフガニスタン撤退、中国の一帯一路。影響圏拡大をめぐって大国がせめぎ合うユーラシア。劇的に変化する国際環境の中で日本が採るべき道とは。第一線で活躍する有識者が日本外交の課題を論じる。

広瀬公巳(ひろせ・ひろみ)
1963年生まれ。近畿大学教授。専門はインドなど南・東南アジアの地域情勢。
NHKニューデリー支局長、クアラルンプール支局長、同解説委員等を経て現職。
著書に『自爆攻撃~私を襲った32発の榴弾』(日本放送出版協会、2002年)、『海神
襲来―インド洋大津波生存者たちの証言』(草思社、2007年)、『インドが変える
世界地図 モディの衝撃』(文春新書、2019年)など。
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