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実は「学歴ロンダリング」こそ、国際標準なのだ

いまだに東大法学部が頂点の学歴ガラパゴス日本
櫻田大造(関西学院大学教授)
 「学歴ロンダリング」をご存知だろうか? 非合法で得た金銭を出所が分からないようにする行為を「マネーロンダリング(資金洗浄)」と呼ぶが、それと似たように、大学の学部卒の出身よりも、ランク的、ステータス的に上の大学院に進学すると、最終学歴がより良く見えることをいう。もっぱら批判的に使われている言葉だが、むしろ日本はもっと学歴ロンダリングしていい、と筆者は言う。

※本稿は、中公新書ラクレ『「定年後知的格差」時代の勉強法』(櫻田大造著)の一部を抜粋・再編集したものです。

社会人は学部より大学院のほうが容易

 社会人の皆さんに向けて、大学院生になることを筆者は大いにお薦めしたい。今や学部入学よりも大学院修士課程の入試が容易になっているケースも多いからだ。たとえば東大法学部の修士課程に該当する公共政策大学院では専門職学位課程があり、大卒と同等の経験、技能、知識を持っていると、職業人でも受験資格がある。選抜も、英語(TOEFL)の学力などが一定以上で入学願書審査に通ると、口述試験=面接のみで決まる(大学院入試の現況については、各大学のウェブサイトを参照していただきたい)。

 東大や京大の学部出身者でない社会人であっても、ランクの高い大学院への挑戦を臆することはまったくない。ブランド大学院への入学は、実は、学部入学よりははるかに容易なのである。時には「学歴ロンダ(リング)」と揶揄されるかもしれないが、まったく気にすることはない。就活や転職にも有利になるかもしれない。『週刊ダイヤモンド』(二〇二〇年八月八日・十五日合併号)によると、「Fランク大から早大院に進学して電通に採用」となった例とか、「中堅国立大から東大院に進みグーグルに採用」された例もあるとのこと。

オバマも、トランプも、バイデンも「学歴ロンダリング」

 さらに国際的に見ると、レベルの高い大学院への進学や、より専門的な学位を得ることはおかしいことではまったくない。むしろそのほうがカシコイやり方だととらえられている。

 バラク・オバマ(Barack Obama)元アメリカ大統領も、まずはオクシデンタル大に入ってから、ニューヨーク市の名門コロンビア大に編入。最後はハーバード大ロースクールで法務博士号(JD)の学位を取っている。ドナルド・トランプ(Donald Trump)前大統領も、カトリック系のフォーダム大からペンシルベニア大へと、編入でグレードアップしている。さらに、ジョー・バイデン(Joe Biden)現大統領ですら、地元のデラウェア大からシラキュース大ロースクールを修了(JD)している。元・前大統領も現職大統領も三人とも「完全な学歴ロンダ組」なのである(現・大統領夫人のジル・バイデン〔Jill Biden〕氏に至っては、五五歳で母校のデラウェア大学院から教育学の博士号まで取得して、短大〔コミュニティ・カレッジ〕で教鞭を執っている)。

 欧米を中心とする先進民主主義国では、過去二〇年間で、このような「学歴ロンダ」も含めた学位を非常に重視するようになった。むしろアメリカ・カナダなどは、いわゆる「学歴ロンダ」がフツーであり、「学位(どこの大学院を修了してどのような肩書=degreeがあるか)」社会である。日本の大学学部卒は、今や欧米では日本の高卒に相当するといった感覚だ。

 換言すると、欧米では日本で言う高卒は大卒にあたり、大卒が修士という感じになっている。このように、欧米主要国では、「学歴=学位」のインフレが起きているのだが、その背景にあるのは、定年退職制度の廃止とともに、年配の高学位層がなかなか現役を退かないことも挙げられる。

「学校歴社会(東大法学部が文系の最高学歴で就活に有利! といった大学学部卒のランク付け)」は、実は日本特有のものであり、かなり特殊である。ガラパゴス化した日本の「学校歴」重視は、国際社会の中ではデメリットになることもある。たとえば、修士号以上の学位が必須な国際連合(国連)関係の国際公務員になれないように。

日本でも社会人院生がブームに

 このような「学歴ガラパゴス社会」の日本でも、今や社会人院生が修士課程に入り直し、学び直そうとすることが一つのブームになっている。一八年度のデータによると、修士課程入学者数約七万四〇〇〇人のうち、社会人は一〇%を上回る八〇〇〇人もいた。同年度の博士課程における社会人入学者は約六〇〇〇人に上り、入学者総数の一万五〇〇〇人のうち四二%以上を占める数字だ。

 たとえば、ロバート・フェルドマン(Robert Feldman)東京理科大客員教授によると、二〇二〇年の経営学研究科の院生平均年齢は四三歳。中には六〇歳代のシニア層も在籍していて、オンライン授業を含め、熱心に勉強しているそうだ。このような例が今後はトレンドになっていくと思われる。キャリアの途中で再教育を受けてから再度働いたり、働きながら大学院に通う欧米型ジョブも、人事や労働市場の流動化とともに、日本でも根付いていくだろう。

 いわゆる士業や個人経営的な仕事だと、学び直しは時間面で有利だし、やる気と実行力でかなりのレベルまでいける。たとえば、京大大学院のホームページに掲載されている京都先端科学大客員教授の村井淳一氏の例が面白い。公務員を経て税理士になり、三八歳で京大院修士課程に入学。その後アラフィフで博士課程を単位取得満期退学しているが、仕事を続けながら修士と博士課程で学んだことになる。

 意外に知られていないことだが、この記事で紹介したように、学部ではなく大学院に入学し、修士以上の学位を取るほうが、学部入学よりもかなり楽なのである。

「定年後知的格差」時代の勉強法

櫻田大造

定年後に本当にコワいのは経済格差より「知的格差」。情報を集めるだけの「受動的知的生活」から、論文、ブログを書いたり講師を務めたりする「能動的知的生活」へ転換すれば、自己承認欲も他者承認欲も満たされ、病気の予防にもなる! その方策として本書は、①大学(院)の徹底活用術、②研究法、論文執筆術、③オンライン、SNS活用術等を伝授。キャリアを活かすもよし新分野に挑むもよし。講師業や博士号さえ夢じゃない実践マニュアル。

櫻田大造(関西学院大学教授)
関西学院大学国際学部教授。1961年長野県生まれ。シアトル大学教養学部政治学科および上智大学外国語学部英語学科卒。トロント大学大学院政治学修士課程修了(MA)。博士(国際公共政策、大阪大学)。信越放送(SBC)ラジオの国際問題コメンテーターも兼務。専門は国際関係論、比較外交政策。著書に『誰も知らなかった賢い国カナダ』(講談社)、『カナダ・アメリカ関係史』(明石書店)、『「優」をあげたくなる答案・レポートの作成術』(講談社文庫)、『大学教員 採用・人事のカラクリ』『大学入試 担当教員のぶっちゃけ話』(ともに中公新書ラクレ)、『比較外交政策』(共編著、明石書店)など。
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