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コロナ対応から遠のく菅氏 側近頼りの「首相主導」

永田町政態学

 政権の危機を迎えた安倍首相が頼りにしたのは、第一次内閣以来の「側近」たちだった。新型コロナウイルスの感染拡大をめぐり、首相がトップダウンで決定を下す場面が増えている。第二次内閣発足以降、菅官房長官らが中心となって政策決定をリードしてきた「官邸主導」は、「首相主導」に変化している。


 「これで完璧だ」。三月初旬、首相官邸で中国と韓国からの入国制限を強化する方法を協議した際、首相は北村滋国家安全保障局長の示した案に思わず膝を打った。


 北村氏の提案は、両国民に発給済みの査証(ビザ)の効力を停止するものだった。入国拒否に近い対応となる。首相の支持基盤である保守派内では、早くから中韓両国からの全面入国拒否を求める強硬論があった。その声に応えると同時に、出入国管理・難民認定法に基づく入国拒否ほどの強硬な措置ではないため、相手国の面目を潰さないという利点もある。


 首相は三月五日、中国の習近平国家主席の国賓来日延期が発表された約三時間後に、「国民の不安感を解消する」として、入国制限強化策を発表した。菅氏に相談したのは発表当日だったという。


 北村氏は警察庁出身。第一次内閣で首相秘書官を務めて以来、首相に忠誠を誓う側近中の側近だ。第二次内閣発足後、内閣情報官として最も頻繁に首相と面会し、国内外の情報を伝えてきた。昨年九月に外交・安全保障政策の司令塔となる国家安全保障局長に昇格した。前任の谷内正太郎氏は外交方針をめぐる首相との意見対立が指摘されたが、北村氏が首相に異を唱えることはないとみられ、「首相との関係はますます近くなった」(政府関係者)とされる。


 北村氏と同じく第一次内閣の首相秘書官で、第二次内閣で首席秘書官に就いた今井尚哉氏は、昨年九月に政策全般を担当する首相補佐官を兼務し、さらに存在感を増している。


 首相は、小中学校、高校などの一斉休校を要請した際も、事前の検討を今井氏に委ねた。首相の出身派閥に属する萩生田文部科学相ですら、知らされたのは要請の当日だった。萩生田氏は保護者への影響が大きいと難色を示したが、首相と今井氏は「あとは責任を持つ。任せてほしい」と引き取った。


 感染拡大は経済にも深刻な打撃を与えている。首相は、経済産業省出身の今井氏に対応策の検討を任せている。政府は大型の経済対策を四月にまとめる方針だが、霞が関では「今井氏の下で経済産業省が具体案の作成を主導するのだろう」との声が漏れる。


 第二次内閣以後の安倍政権は「官邸主導」と評されてきた。この言葉を体現してきたのが、政権の要である菅氏だ。内閣人事局で人事権を握って各省幹部を品定めし、警察庁出身の杉田和博官房副長官とともに、危機管理を取り仕切ってきた。


 新型コロナウイルスをめぐっても、中国・武漢へのチャーター機派遣など初期対応は菅氏が主導した。しかし、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」への検疫に関して国内外の批判を浴びると、首相は自ら対応に乗り出し、トップダウンの色を強めるようになった。主導権は菅氏から、首相側近の今井・北村両氏へと徐々に移っていった。「菅氏は各省のどの官僚が使えるかを知っているが、首相はそんな細かいところまで分からない。自然と、気心の知れた側近を頼る」と政府関係者は解説する。


 首相は周囲に「緊急時は走りながら決めていくしかない。調整や制度設計は後回しでも仕方ない」と語る。しかし、菅氏が霞が関に指示するこれまでのスタイルが崩れたことで、厚生労働省などは蚊帳の外に置かれることになり、不満がたまっている。 「首相主導」で失敗すれば、首相の求心力低下に直結する。官邸内力学の変化は、政権の行方も左右する可能性がある。(米)


(『中央公論』2020年5月号より)

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