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永田町は大阪・橋下の揺さぶりに耐えられるか

橋本五郎(読売新聞特別編集委員)×後藤謙次(ジャーナリスト)×長谷川幸洋(東京新聞論説副主幹)

長谷川 にもかかわらず金融市場がそんなに荒れなかったのは、実はトレーダーたちのボーナスが確定していたからなんですよ。十二月は、彼らにとっては「クリスマス休暇」。ちょうど国会が開く前後には、彼らが「再稼働」しますから、株価が大きく下がる可能性があります。そうなると「こんな時に増税か」という意見が、与野党双方からさらに強まるのは避けられないでしょう。

橋本 ただ、消費税については、誰が考えても上げなかったら国が立ち行かないわけです。それをどうやって国民に納得してもらうかというところに、結局は帰着するのです。要は、総理に何が何でもやるという覚悟があるのかどうか。野田さんが財務大臣時代に、よく「菅さんに欠けるのは、覚悟と手立てだ」と言っていました。現状ではそれがそのままご自身にも当てはまる(笑)。「手立て」が見えないから、「覚悟」も見えにくいんですね。

長谷川 やはり一番問題なのは「政治家の言葉」ですよ。TPPについても、なぜ必要なのかを総理が自分の言葉でしゃべったとは言い難い。消費税も、やっぱりしゃべらないのではないかという気がしてなりません。

後藤 今の消費税だって、一九七九年の国会決議の後、「土光臨調」を経て、導入は十年後ですからね。今回は、昨年末におっとり刀で党内に「行政改革調査会」をつくりましたけど......。

長谷川 あれもひどい泥縄ですよね。

後藤 国家公務員の給与引き下げができなかったとか、行革が進んでないとか指摘されて、もう本格論議を始める時期なのに、ようやく前段の形だけ整えた。
 八二年に、国家公務員給与引き上げの人事院勧告を見送った際には、当時の宮沢喜一官房長官が、鈴木善幸総理の非常事態宣言を読み上げました。財政難がそれほど深刻なのだということを、懸命にアピールした。そういう「重さ」が感じられないわけです。

橋本 そもそも公務員を叩く前に、まずわが身から切らないと。そうしなかったら、国民の理解も広がりませんよ。民主党はマニフェストで国会議員を衆院で八〇人、参院で四〇人減らすと書いてるでしょう。野党との調整がうまくいかないというのならば、民主党単独でもやって姿勢を示すべきです。衆院は確実に通るのだから。

長谷川 さきほどの景気の話に付け加えると、EU危機に続いて深刻になる可能性があるのは、実は石油の問題です。つまり中東に広がった民主化運動、「アラブの春」がサウジアラビアやクウェートに波及しないか。サウジアラビアは支配層の王侯貴族の多くが八十歳を超えていて、統治能力に不安がある。もしサウジやクウェートの足元に火がついて、産油国が不安定になると「第三次オイルショック」が襲来するという指摘もあります。
 日本は金融以上に石油がアキレス腱になるかもしれない。今年はいつ襲うか分からない金融+オイルの世界経済不安を、強く意識せざるをえない一年になりそうです。

責任逃れの自民、個人プレーの民主

橋本 それにしても、自民党はチャンスでもあるのに、野党の気楽さなのか、政権を攻撃するだけで、「わが党はこうする」という覚悟が見えない。

長谷川 実は、自民党議員は密かに思ってるんですね。「TPPや消費税のような重い荷物はいまの政権に担ってもらえばいいんだ」「その結果、選挙で負けてもらえばいいんだ」と。しかし、それでは野党の責任はどこにいったのかという話になりかねない。

橋本 だから、「野党自民党」に対する信頼が深まらない。

後藤 自民は「与党経験のある野党」にならなければいけないのに「野党経験のない野党」になっちゃった。(笑)

橋本 大震災の時にまっ先に政権に協力する体制を期限付きで明確にすべきでした。「さすがに五四年も政権を担ってきた政党だ」と思わせることはできたはずです。そして次なる段階では「TPP参加と消費税増税は日本にとって必要なことなのだ」と、苦しくても言う。そういう姿勢を貫けば、政権奪取はそんなにやっかいではないでしょう。

長谷川 野党だからこそ、個別政策に賛成・反対の姿勢をしっかり出すべきだと思うんですけど、実態は逆で、むしろ民主党より追い込まれている感じがします。仮に年内に解散があっても、TPPについて方針が決まらないまま総選挙に突入するかもしれない。消費税だって、増税に賛成ならば野田さんに協力すればいいじゃないかというのが、国民の素直な疑問だと思いますよ。僕は増税に反対ですけど。

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