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岡田 vs.前原"番長"争いの行方は

永田町政態学

「輿石さんは、自分に言うより先に外に向かって発信する人が好きでない。野田首相は、まず輿石さんに相談するから、お眼鏡にかなう。岡田副総理と前原政調会長は、まず発信してみる『打ち上げ花火系』だから、信用していないのではないか」

 民主党の輿石幹事長をよく知る党職員の見方だ。

「まじめすぎる」と時に揶揄される通り、岡田氏は本来、できもしない目標を掲げることを嫌う。しかし、副総理に就任して以降、旺盛な発信ぶりが目立つ。まず、「国会議員も歳費削減すべきだ」とぶち上げ、輿石氏の不興を買った。消費税の与野党協議を進めるため、野党が求める最低保障年金制度の見直しにも岡田氏はいち早く触れた。しかし、最低保障年金制度は民主党のマニフェストの看板政策であり、輿石氏は「引っ込めますという話にはすぐにはならない」と火消しに努めた。

 野田首相は消費税引き上げに政治生命をかけており、反対派は「首相はまるで増税マニア」と陰口をたたいて、抵抗する構えを見せている。野党対策も難題だ。首相が岡田氏を消費税増税の司令塔に指名したのは、そのぶれない姿勢と突破力に期待したためだ。岡田氏周辺は「首相も藤村官房長官もおとなしい。自分が前に出なければいけないと、岡田氏は無理をしている。それが時に空回りにつながっている」と見ている。

 一方、前原氏は昨年八月、政調会長に就任した。「政権の顔」の一人だ。歯切れの良い発言と、整った顔立ちで国民の人気が高い。しかし、いまだに「言うだけ番長」という汚名を返上できていない。この呼び名、梶原一騎さん原作のマンガ「夕やけ番長」をもじっている。夕やけ番長はケンカの天才だが、言うだけ番長は、威勢の良いことを言うが、実行が伴わない。語感は似ていても中身は違うという意味合いだ。

 昨年暮れ、群馬県の八ッ場ダムの建設継続に反対の論陣を張って、建設継続の国土交通省と対立。首相を巻き込む政治課題となった。結局、建設継続でまとまったが、前原氏は責任を取ることもなく、「政調会長を辞すならまだしも、これでは本当に口だけだ」と批判が出た。

 一九九八年結党の民主党は鳩山由紀夫氏と菅直人氏、いわゆる「ハトカン」の時代が長く続いた。その次の世代が、岡田、前原、野田各氏らであり、ハトカンが首相を退いた今、その世代の時代となっている。その先頭を切って野田氏が首相の座を射止めたことになる。

 岡田氏は九〇年衆院選で自民党から初当選し、現在当選七回。前原氏は当選六回で九三年の初当選時、日本新党だった。二人は九八年結成の民主党で同志となるが、これまであまり接点はない。

 岡田氏は群れることを嫌う。安住財務相や玄葉外相らと近いが、上下関係ではない。前原氏は約七〇人の前原グループを率い、仙谷由人政調会長代行や枝野経済産業相らが脇を固める。岡田、前原両氏はお互いの論評を慎重に避けているが、「肌合いが違う。二人きりで食事したこともないのではないか」との指摘がある。

 保守系から旧社会党まで幅広い議員の寄り合い所帯の民主党は長く結束の維持が課題だった。岡田氏は常々、「みんなで選んだ代表をみんなで支えよう。足を引っ張ることをやめよう」と唱えてきた。副総理になった今もその信念は、変わらない。メディアから「いつかは総理のイスに座りたいか」と問われ、岡田は「今は目の前のことをやりたい」と答えた。

 前原氏は「野田首相を支える」と言いながら、ポスト野田の意欲を問われれば、「天命が下るのであれば、その覚悟はある」と答える。前原氏周辺には「今の政調会長ポストは、首相と近からず遠からずで、次を狙うにはちょうど良い」との声もある。

 野田首相の民主党代表任期は今年九月まで。再選を目指して出馬すれば、岡田氏は野田支持に回るだろう。首相が再選をあきらめた場合は、岡田氏はその意志をついで代表選に名乗り出る可能性がある。「野田対前原」か「岡田対前原」か、首相の無投票再選か。あるいは、小沢一郎元代表が出馬するのか。

 岡田氏が自戒する通り、民主党には身内の足を引っ張る体質があり、要職に就くと、欠点や失点をことさら喧伝されて評価を下げる傾向がある。輿石氏の歓心を買う必要はないものの、野田政権で口だけでなく結果を出せるかで、本当の番長はどちらか評価は定まる。(華)

(了)

〔『中央公論』2012年4月号より〕

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