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解散も先送り? 揺れる野田首相の心

永田町政態学

 九月二十一日の民主党代表選は事前予想通り、他の三人の候補に大差をつけ、野田首相が一回目の投票で圧勝した。二十六日の自民党総裁選は、決選投票で安倍晋三元首相が勝利した。「政権奪還」を前面に打ち出す安倍氏の総裁就任で、秋の政局は「野田首
相が衆院解散・総選挙にいつ踏み切るのか」を最大の焦点に再び動き始めた。

 民主党には、良くいえば率直、悪くいえば脇が甘くて重量感のない物言いをする国会議員が少なくない。その中で野田首相は、表舞台での演説や国会答弁ではスキがない。「あんなに答弁がうまい首相は歴代でも珍しい」と自民党の閣僚経験者も舌を巻く能弁ぶりをみせる。

 ところが、内輪の場になると、首相はいたって寡黙だ。首相官邸では、秘書官らスタッフと昼食を共にすることが多いが、テレビのニュース番組を見ながら、首相が自ら口を開くことはあまりないという。外を移動する首相専用車の中でも、好きなたばこを吸いながら、渡された資料に黙々と目を通すことがもっぱらだ。

 あまりの寡黙さのせいか、ある側近議員は冗談交じりにこうつぶやいたことがある。

「野田さんは、長くつきあえばつきあうほど、何を考えているのかわからなくなる」

 そんな首相も、残暑厳しい九月初旬、心の揺れが表ににじみ出たことがあった。

「本当に、細野君が出るのか」

 民主党代表選に閣内から細野豪志環境・原発相が出馬しそうだ、との一報を受けた時のことだ。首相は当惑を隠さなかった。周辺の一人は、「総理は、『原発事故対応を二人三脚でやってきた細野が、俺を追い落とそうとするのか』と言わんばかりだった」と証言する。

 首相の心の動揺は、政府が策定中だったエネルギー政策にも影響したのでは、との見方が永田町にはある。

 というのも、九月六日に民主党がまとめた政府のエネルギー政策への提言には、「二〇三〇年代に原発稼働ゼロ」という文言が盛り込まれたのだ。首相の代表選楽勝ムードから一転、若い強力ライバルの細野氏出馬、という観測の中、党内にはこんな見方がすぐに流れた。

「『原発は重要な電源』と主張してきた首相サイドが『原発ゼロ』を容認したのは、代表選に向け、党内の脱原発派の取り込みを図ったということだ」

 しかし、細野氏は翌七日、出馬を断念した。これに呼応したのかどうか、政府は九月十九日、党の「原発ゼロ」提言を盛り込んだ「革新的エネルギー・環境戦略」の閣議決定を、結局見送った。「原発ゼロ」の位置付けはあいまいになった。

 見送りは、米国や経済界などの強い反発を考慮したためとされる。だが、党内からは早速、「首相は『もう脱原発派に媚びる必要はない』と見たのだろう」と、冷ややかな指摘が出た。国民を納得させる明確な説明がないまま、エネルギー政策の迷走だけが印象づけられた。

「近いうちに」と自民、公明両党に約束した衆院解散についても、首相の心変わりがささやかれる。九月二十三日、首相の要請で、輿石幹事長の続投が決まった。輿石氏は強硬な解散先送り論者で、党内からは「輿石続投は、解散先送りとイコールだ」との声が漏れる。七十六歳で、参院議員の輿石氏に、党の顔の幹事長として衆院選を仕切らせるのはそもそも無理だという見方もある。

 解散をめぐる首相の最近の口癖は、「やるべきことをやった暁に判断する」だ。問題は、その「やることリスト」に何が載っているかだが、周辺の話を総合すると、首相はどうやら次のメニューを考えているようだ。

 リストにあるのは、1、社会保障制度改革国民会議の設置など一体改革の課題実現、2、衆院小選挙区の一票の格差是正のための小選挙区「0増5減」と議員定数削減、3、赤字国債発行を可能にする特例公債法案の成立──の三点セット。全部実現する気なら、衆院選を行う選択肢はほぼ三パターンしかない。「来年一月下旬の通常国会冒頭解散」「二〇一三年度予算成立以降の春の解散」「来夏の任期満了による衆参ダブル選挙」だ。

 無論、解散は首相の専権事項。こればかりは寡黙なままでも仕方ない。ただ、リストのどれ一つとっても、早期解散を求める自民、公明両党の協力なしでは実現できない。裏舞台での寡黙さを捨てて、自ら野党説得の先頭に立てるかどうか。首相の心はまた揺れそうだ。(司)
(了)

〔『中央公論』201211月号より〕

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