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四十歳定年制の真意は誤解されている

柳川範之(東京大学教授)

内閣府国家戦略会議フロンティア分科会「繁栄のフロンティア部会」が七月に公表した報告書には「四十歳定年制」の提言が盛り込まれ反響を呼んだが、言葉だけが独り歩きしている観も否めない。報告書の背景や提言の意図について、部会長を務めた柳川範之氏に聞いた。

提言の背景

 まず申しあげたいのは、「四十歳定年制」は報告書の主要なメッセージではなく、日本経済が生き残っていくために、社会全体の構造を変える一つの方法として提案したということだ。「四十歳定年制」は想像していた以上に強い言葉で、四十歳で働き場所がなくなってしまうというような感覚で受け止められ、そこだけがクローズアップされてしまった。後で述べるが、四十歳で雇用を切るという意味ではないことを強調しておきたい。

 今回の議論は、日本経済が直面する三つの構造的な問題をどのように軽減、克服するかという問題意識が出発点にある。第一に人口減少、特に十五〜六十四歳の「生産年齢人口」が今後大幅に減少する。経済成長が鈍化する一方、高齢者を支える現役世代の負担は大きくなる。少子化対策や移民政策は即効性にも短期的な実現性にも欠けるため、現在の人口構造は当面変わらないだろう。現実的な対策は、女性や高齢者など意欲も能力もあるのに活用されていない人が働けるようにすることだ。

 第二に経済や社会の変化のスピードが速くなり、一つの世代が働き始めてから引退するまでの三〇〜四〇年ほどのあいだでも大きな環境変化が生じる。変化に対応するための能力開発が行われなければ、限られた労働力も有効に活用できなくなる。

 第三に、人々の寿命が延び、長い一生をどのように生き、働くかを個人が見直すべき時期に来ている。例えば「六十歳定年」と言っても、平均寿命が六十代半ばの時代と八十歳超の時代とでは全く意味が異なる。第一の点とも相まって、定年後の二〇〜三〇年を全て社会保障でまかなうことはできないとの前提で、これからの働き方を考えようというのが議論の背景だ。

〔『中央公論』201212月号より〕

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