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高まる沖縄の独立熱

佐藤優の新・帝国主義の時代
佐藤優

 復帰後、県警が認知しているだけでも127件の女性暴行事件が起きた。認知に至らず事件化していない事案も含めると女性の尊厳がどれだけ踏みにじられたことか。
 政府に警告する。米兵犯罪が後を絶たないため仲井真知事をはじめ多くの県民が、「諸悪の根源」は米軍の特権を認め占領者意識を助長している日米地位協定にあるとの認識を一段と深めている。

 県民からすれば凶悪犯罪を「事故」と認識する不見識な大臣、副大臣を抱えたことこそ「事故」だ。米兵犯罪や基地問題と真剣に向き合えない政務三役は、政権中枢にいる資格はない。日米関係を再構築する上でも害悪だ。〉

日本の政治エリートが持つ沖縄への差別意識

 森本氏は、「吉良外務副大臣をはじめ、政府高官の認識は同じはずなのに、なぜ私だけが執拗に攻撃されなくてはならないのか」という受け止め方をしていることと思う。繰り返すが、森本氏は沖縄人にとって中央政府のシンボルとなっている。森本氏の発言の背後にある日本の政治エリートが沖縄に対して持つ差別意識を沖縄の政治エリート、マスメディアは敏感につかみ取っているのである。

 差別が構造化されている場合、差別をする側は自らが差別者であるということを自覚しないのが通例だ。ソ連共産党中央委員会に勤務する民族問題を担当する幹部も、自らがリトアニア人、ラトビア人、エストニア人を差別しているなどという意識はまったく持っていなかった。民族紛争において、中央政府の政治エリートと異議申し立てをする民族の認識の非対称性は、よくあることだ。

 沖縄で現在進捗している事態は、第三者的に見ると民族紛争の初期段階だ。ロシア語に「ナロードノスチ(народность)」という言葉がある。日本語では「亜民族」と訳される。亜熱帯は熱帯ではないが、熱帯と似た特徴を持つ。亜民族も言語、文化など民族と似た特徴を持つが、民族に特徴的な、「われわれによって、われわれが居住する領域を統治する」という政治的欲望を持たない。ただし、状況によって、亜民族意識は民族意識に転換する。その転換の鍵になるのが亜民族の間で「われわれは虐げられている」という意識が共有されることである。

 中央のマスメディアではほとんど取り上げられていないが、七月三十一日、日本政府(担当は外務省)が国連人種差別撤廃委員会(CERD)の情報提供要請に応じ、〈日本政府は、この情報の提供により、普天間飛行場の辺野古移設計画は同飛行場の危険性の除去、沖縄の負担軽減及び我が国の安全保障上の要請によるもの、また、高江地区ヘリパッド建設計画は土地の大規模な返還による沖縄の負担軽減及び我が国の安全保障上の要請によるものであり、両計画とも差別的な意図に基づくものでは全くないことを強調する。〉(外務省HP)と回答した。差別が構造化されている場合、差別者はその現実を認識していないのが通例だ。日本政府の主観的意図と差別の有無は別の位相の問題だ。

 この回答には、〈一般的に言えば、沖縄県に居住する人あるいは沖縄県の出身者がこれら(引用者註*人種差別撤廃条約の対象となる)諸特徴を有している、との見解が我が国国内において広く存在するとは認識しておらず、よってこれらの人々は本条約にいう人種差別の対象とはならないものと考えている。〉と記されている。「沖縄人が他の日本人と異なる独自性を持つ」という認識が拡大すれば、深刻な事態に発展するという危機意識を、外務官僚は明らかに持っている。

 大田昌秀元沖縄県知事(琉球大学名誉教授)が、〈沖縄から独立論も本格的に論議されるようになるだろう。独立すれば国連に加盟できる。沖縄より人口の少ない国はある。/国連の人種差別撤廃委員会が沖縄の基地集中を差別と認め、日本政府に勧告した。国連や米国に直接働き掛け、主体は沖縄にあるということを発信しなければならない。〉(十月十八日付『琉球新報』)と述べているが、沖縄の日本からの分離独立の危険性が現実に存在すると筆者は見ている。

沖縄は米国政府との直接交渉に乗り出した

 集団強姦致傷事件に対する外務省の動きも鈍かった。事件発覚当日、吉良州司外務副大臣がルース駐日大使に強い遺憾の意を表明し、再発防止を要請した。〈同省幹部は「本来なら起訴された後に米政府には要請するが、今回は悪質な事件なので要請した」と述べ、異例な要請であることを強調した。〉(十月十七日付『琉球新報』)が、これは小手先の対応に過ぎない。外務官僚がほんとうに今回の集団強姦致傷事件を悪質と考えているならば、フランスに訪問中の玄葉光一郎外相が米国のクリントン国務長官に電話をかけて抗議したはずだ。

 クリントン国務長官は、米兵の女性に対する人権侵害に対して厳しく対応する。初動の対応を注意深く観察すれば、外務省が集団強姦致傷事件を不良兵士による例外的事態として、米国の出先機関の責任者であるルース大使までの問題にとどめ、外相レベルで扱う深刻な外交問題にしないように腐心している姿が見えてくる。中央政府の対応に沖縄は不信感を強め、独自の行動を始めた。〈仲井真知事は首相官邸での斉藤(引用者註*勁内閣官房副長官)氏への抗議後、記者団に対し「地位協定では米兵は公務中に日本の法律は守らなくていいとなっており、若い兵士がいろんな行動をしてしまう」と地位協定改定の必要性を強調。/運用改善で対応するとの従来の政府の姿勢に対し「(運用改善は)米軍がいやだと言えば何も運用されず、ご自由にということと同じ。その程度の話で米軍基地が維持されるわけはない」と強い言葉で反論した。/仲井真知事は17日、今週末に予定している訪米で、日米地位協定の見直しを米政府関係者に直訴する考えを明らかにした。〉(十月十八日『沖縄タイムス』電子版)

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