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いつだって争点なき究極のキャラ選挙

青山佾(元東京都副知事)×橋本五郎(読売新聞特別編集委員)

橋本 対決するのはいいんだけど、石原さんは任期半ばで国政に出てしまった。太陽の党って、「太陽の季節」で若さをアピールしたいんでしょうか(笑)。ちょっとしっくりこない。

青山 そうですね。(笑)

橋本 都が尖閣を買うという話も、違和感がありました。日本がせっかく実効支配しているのに東京都が買うと言ったことで、領土問題になってしまった。降りかかる火の粉は振り払わなければいけませんが、むしろ実効支配されている竹島、北方領土に攻撃の矢を向けるべきでした。

青山 弱腰外交の国に対峙するというメッセージを送る意味では抜群の政治センスだとは思います。
 あのとき都庁では、「どうして北方領土や竹島ではなくて、尖閣なんだ」と囁かれたそうです。自分に弾が飛んできそうなところには、絶対に足を踏み入れない石原さんらしいと言えば、言えますね。そういう意味でもつくづく政治センスのある方だなと思います。(笑)

本質的ではない大阪都構想

橋本 ぜひ青山さんのご意見をうかがっておきたいのですが、大阪の橋下徹さんが「都構想」を打ち出して法整備を進めています。あれはどう見ていらっしゃいますか?

青山 大阪府議会で意見を求められたので、「東京の制度の真似をするのはやめたほうがいい」と申し上げました。問題は、大阪の経済や福祉、まちづくりをどうするのかであって、制度をいじって大阪が浮上するとは、到底思えないのです。そういう本質の議論が、いっこうに聞こえてこないでしょう。

橋本 「制度改革」を掲げると、いかにも「やっている」という感じになりますからね。

青山 行政を知らない人に限って「制度が悪い」と言うのですよ。東京もそうですが、ベストの制度なんてありません。その仕組みの中で何をやるかが重要なのです。

橋本 そのうえ対抗勢力であるべき議会は形骸化しています。大阪の橋下さんは、首長も議会も両方握ってこそ政策実現が可能になるという考えですが、これは危険だと思います。
 その橋下さんも市長では限界があるということで、石原さんの太陽の党を吸収して国政に進出しようとしています。選挙を前に急ぎすぎ、政策は二の次。ともかく第三極だということですが、政策でバラバラになった民主の二の舞を懸念します。

青山 議会に関して言うと、議員自体が、自分たちが立法機関だということを忘れ、知事の与党だ野党だとやっている。だから、そんな議会だったら要らないから定数を減らせという話にもなるのですけど、私は危険な風潮だと思っています。議員は多いほうがいろんな階層の意見を議会に反映しやすくなるし、密室審議も防げる。
 二〇〇五年に水害の復興支援のために、米国ニューオーリンズに一〇回ぐらい足を運びました。驚いたことに、人口が三〇万人近いニューオーリンズに、市議はたったの七人しかいませんでした。商工会議所の会長の話が印象的でした。極端に少ない議員の中に公立教育の崩壊に問題意識を持つ人間がおらず、議会で取り上げられることもなかった。その結果、識字率は下がり、理科の知識も不足した。ハリケーンの恐ろしさも、直撃されるという認識さえないまま、一〇〇〇人以上が犠牲になったのだと。

橋本 恐ろしい話ですね。

青山 議会がしっかりしていれば都政はうまくいくというのが、私の実感です。知事を八年間務めて、首尾一貫正しいことをやり続けたなんていう人はいませんから。対抗勢力としての議会の重要性は、有権者ももっと認識すべきだと思いますよ。

マニフェスト選挙の対極 問われるのはキャラクター

橋本 都知事選挙に話を戻しましょう。青山さんは戦後の知事の顔ぶれを「時代の流れ」と表現されました。個々の人物のパーソナリティーにあまりかかわりなく、時代に与えられた使命を全うする人物が選ばれているというわけですね。

青山 そうです。時代の要請があって、それに応える。しかしやがて、「功」と表裏一体の「罪」の部分が拡大してくるわけです。政策転換を図ろうとしたら、トップのクビを挿げ替えるしか方法がないんですね。その歴史です。
 そういう意味で、都知事選は「イメージ選挙」というような、生やさしいものではありません。同時に、マニフェスト選挙とは対極にあります。マニフェストを掲げることを否定はしませんが、築地市場移転の賛否とか新銀行東京の処理だとかの、個々の政策が争点になるわけではない。あくまでも国と対峙しつつ、東京の未来を託せそうなキャラクターを選ぶ。今回もそういう選挙になるだろうと思います。

橋本 自民党の歴代総理が典型ですけど、政治にも"振り子の原理"が働くんですね。「待ちの政治」の佐藤栄作の後に「人間ブルドーザー」の田中角栄、やがて金脈にまみれると「クリーン三木(武夫)」のように違うタイプを選んで擬似政権交代を繰り返すことで、政治の活力を保つ。都知事選にも似たところがあるように思うのです。そうすると、石原さんの後はけっこうテクノクラート的な人が選ばれるのかなという気もします。

青山 なるほど。政策面の話をすれば、数々の功績を残した石原さんですが、明らかにやり残したことがあります。教育と雇用です。
 東京は、小中高校の私学教育は充実しているものの、肝心の公立学校教育が危機に瀕しています。

橋本 いじめとか学級崩壊とか。

青山 そもそも学力低下が著しい。公教育の地盤沈下は日本全体の問題ですが、まずは東京から歯止めをかけて、底上げを図らないと。石原さん自身は教育論の本なども多数出されていて問題意識もあったと思うのだけど、残念ながら「君が代、日の丸」以外は、ほとんど手がつけられませんでした。
 また雇用というのは、単純な「雇用対策」ではなくて、東京ならではのビジネスチャンスを生かした創業支援を柱に据えた経済の活性化です。中小をはじめとするものづくり支援も、大事な課題ですね。

橋本 最先端の産業と伝統的な町工場が共存しているのも、東京の強みですからね。それはしっかり守ってほしい。

青山 そのとおりです。ニューヨークにもロンドンにもパリにもない生産力を持っているのが、東京の強みであり魅力なんですよ。

橋本 将来にわたって守るべきもの、つくるべきもの、各候補者には「東京はかくあるべし」というビジョンを、ぜひ語ってほしいですね。

青山 これまで都民は、時代に見合ったキャラクターを巧みに選択してきました。その賢明さが今回も示されることを、私は期待しています。
(了)

〔『中央公論』2013年1月号より〕

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