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橋下徹舌禍事件とメディアの大罪

森功の社会事件簿
森功(ノンフィクションライター)

 また風俗活用発言については、初めは得意のツイッターで「アメリカはずるい」「米軍基地の周囲で風俗業が盛んだったことも歴史の事実」と書き込んだ。そのあと、さすがにまずいと思ったのか、「アメリカの風俗文化や価値観についての認識が甘かった」「日本とアメリカで認められていることの違いについて、慎重に考えなければいけなかった」と軌道修正を余儀なくされる。最後は一部撤回、謝罪した......。

 が、それでも大半の発言そのものは撤回しない。それどころかこの間、騒動の原因はマスメディアの「大誤報」だと責任転嫁する始末だ。理屈と飯粒はどこにでも付く、という。橋下理論は屁理屈にもならないレベルなのでこれ以上は触れないが、かくして日本屈指の大きな自治体の首長であり、野党第一党をうかがう政党の代表として、世界に大恥をさらしたのである。

 フェミニストでなくとも腹が立つ。で、問題はなぜこんな騒ぎになったのか、である。子供のように何でも反論しなければ気が済まない本人の幼児性はさておき、周囲に目をやると、やはりメディアの責任を問いたい。政治家のアイドル化、昨今はなかんずくお笑い芸人化している現象は、メディアの扱いが元凶だ。

 二〇〇八年一月、橋下徹は評論家の堺屋太一らが大阪府知事選に担ぎ出した。が、その得票は眼を見張るほどではない。得票一八三万二八五七は、過去最多の一九九九年四月横山ノックの二三五万九五九票に遠く及ばない。かつての岸昌や中川和雄なども二〇〇万票超えしていたし、得票率なら〇四年二月の太田房江のほうが上だ。

 それでいて橋下は、一昨年十一月の大阪府市ダブル選まで絶大な人気を保ち、あらゆる選挙で勝利してきた。いわばダブル選後の一年がピークであとは下り坂になるが、五年近くの人気を支えてきたのは、もっぱらテレビだ。

 関西の民放テレビ局の後押し。また在阪の新聞も、批判を書いて取材現場の出入り禁止を食らう恐怖から、政策のチェックを怠り、言いたい放題を容認してきた。結果、選挙で連戦連勝、ついにメディアは全国ネットで橋下の言い分を垂れ流してきた──。そう感じるのは筆者だけではあるまい。

 かくいう筆者も、かつて彼のことをトリックスターと書いたが、今となっては反省している。今度の発言は、自民の勢いに埋没しそうな焦りから、本人が独自色を打ち出そうとした結果というのが、関係者の見方だ。それはたしかだろう。しかし計算ずくのトリックのように見えて、その実、タネはみえみえ。すこぶる浅い思慮を露呈してしまった。それを五年もの長きにわたって、ありがたく拝聴してきた我々も、大いに恥じるべきかもしれない。
(敬称略)
(了)

〔『中央公論』20137月号より〕

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