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新・自民党研究

参院選大勝で党内抗争勃発か?
星浩(朝日新聞特別編集委員)×橋本五郎(読売新聞特別編集委員)

橋本 「安心して」党内闘争をやる環境になったら、当然、憲法改正が一番のテーマになるでしょう。宮澤喜一さんが典型だと思うけれど、憲法改正に注ぐ力があったら別のことをやったほうがいい、という「回避論」が、今の自民党内にも案外あると感じます。そうではない今の総理たちとの間で、華々しくはないけれど深刻な対立になるかもしれない。

 安倍さんの中にも、「自主憲法を」という岸信介さんのDNAは、当然あるでしょう。一方で日米同盟を重視するという立場ですから、集団的自衛権の問題を早く何とかしたい。これも防衛大綱の改正や日米ガイドラインの見直しに関わる話なので、決して一筋縄でいくものではありません。それにエネルギーを集中すべき、という議論があるくらいで、安倍さんも悩んでいるのではないでしょうか。
 加えて考えなくてはならないのは、このところの米国の変化です。かつてブッシュ政権下でアーミテージ国務副長官が仕切っていた当時のような、とにかく日米の安全保障体制を強化して中国に向き合えばいいんだ──といった単純な認識ではなくなってきているんですね。経済を中心に置いて米中関係を重視するオバマ政権は、日本が中国を刺激するようなことはやってほしくない、というのが本音。そうなると、中国の嫌がる集団的自衛権の話は急がなくていい、というスタンスを明確にしてくるかもしれないのです。

橋本 その意味では、六月に行われた米中首脳会談には、やっぱり注目せざるをえません。中身がどうだったのかとは別に、両国首脳が二日間で八時間の話し合いを持ったということの意味は非常に大きいですよ。正しく危機感を持つ必要がある。

 二〇〇三年にブッシュ大統領が小泉さんをクロフォードの別荘に呼んで、泊まり込みで会談した時、中国が非常に警戒したんです。この一〇年間で関係は様変わりしてしまった。

橋本 ブッシュさんが「泊まり付き」でクロフォードに招いた海外の首脳は、英国のブレア首相とスペインのアスナール首相、それに小泉さんの三人だけでした。しかもあとの二人が「土日」だったのに、小泉さんだけは平日に呼ぶという、破格の待遇でした。ちなみに江沢民国家主席は「日帰り」でした。まあ小泉さんがブッシュ大統領とうまくいったのは、単に性格が一緒だったから、というのが私の見立てです(笑)。でも中曽根さんのように、努力して「ロン・ヤス」関係を築いた人もいる。安倍さんも、そこは頑張って歴史に残る関係を築いてもらいたいですね。

中堅層に実力がないから自民党は静かに見える

 自民党の党内事情に話を戻すと、維新の会の園田博之さんが「確かに総選挙で政権交代を果たし、安倍さんはそれなりにリーダーシップを発揮している。しかし中堅幹部のところに目を向けると、民主党のほうがまだ顔ぶれが揃っている」と指摘していました。自民党は、そこにももう少し危機感を持つべきだと感じるのです。
 民主党には野田前総理、岡田さん、前原さん、玄葉さん、安住さん、細野幹事長もいる。野田さん、岡田さん、前原さんなどは、仮に自民党にいればしかるべきポストが約束されたかもしれない。にもかかわらず、政治改革が必要だからと民主党をつくり、一〇年近い野党暮らしも体験した。それなりに志が高いし、政策立案能力もあるわけです。
 ひるがえって自民党の中堅・若手を見ると、やや「ぬるま湯系」の二世、三世議員が、どうしても目につく。歯に衣着せず勇気を持ってしゃべるのは、若手の小泉進次郎さんぐらいで。(笑)

橋本 今自民党内が「静か」なのは、参院選までは言いたいことも我慢しようという深謀遠慮かもしれませんが、ものを言えるだけ実力のある政治家がいないから、というのもたぶんにある。

 悲しいかな、そういう面を認めざるをえません。

橋本 「決められない政治」を清算しようと、安倍さんは就任以来、矢継ぎ早にいろんな政策を打ち出して走り続けていますからね。そういう指導者に「ちょっと待った」と言おうと思ったら、よほど深い考えや行動力が必要です。それだけの人や勢力は、今の自民党には存在しないということでしょう。

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