積極的なPCR検査
鳥取県では、PCR検査を多用しています。他の都道府県は厚生労働省の方針どおり、濃厚接触者しかPCR検査をやらないところが多いと思いますが、うちはその場に居合わせた人や、心配な人はみんな検査を受けてもらいましょう、という考え方です。
そうやって検査していくと、やっぱり濃厚接触者以外でもポツポツ陽性者が出てくる。これはもう確率論の問題で、絶対に「濃厚接触者以外には陽性者は出ない」とは言えないんです。だから早めに検査して、ローラーで固めるように検査をする「鳥取方式」をやることで、感染者の数が抑えられるのです。
しかも、鳥取県では大都市と違い、すぐにPCRの検査結果が出る。その日のうちに分かりますから、ご家族などの濃厚接触者もその日に検査できる。こうやって早期検査、早期入院、早期治療という「鳥取方式」を貫徹しているわけです。
新型コロナについては、メディアなどでは、無症状者や軽症者が多いように強調されます。しかし、急激に悪化することがあるのがこの病気の恐ろしいところです。それは、CTスキャンなどで肺の状態を見ないと分からない。最近は、動脈血酸素飽和度(SpO2)と脈拍数を測るパルスオキシメーターが有名になりましたが、やはり医療ケアをやっていないと見えないことがある。無症状だから、軽症だからといって自宅にいて治るかというと、治らない人がいるかもしれない。
私どもは、病床は日本一(人口比)用意させていただいていますし、今でも十分な余裕があるわけです。ですから、軽症者でも若者でも、陽性だったらまずは入院してください、としています。そのうえで、例えば重症化する兆候が出たら、さらに機器や人員の整った病院に転院していただく、ということをやっています。そして、病院に入院したあと、もう大丈夫だろう、という状態まで回復した時に初めてホテル療養に回っていただいています。
大都市部では、ホテル療養、自宅療養している軽症者が多いのですが、なかには、軽症だからと自宅療養していたが、容体が急変して亡くなったという悲しいニュースが流れることがあります。しかし、本来、軽症から直接死に至る、ということはありません。軽症が中等症になり重症化する、という段階があるはずなんですけれど、それが時に見えにくくなってしまうんですね。だから、やはり早期入院・早期治療が重要なのです。本県の場合は、重症者の数も非常に抑えられています。それは、医療支援をまずは整えて、その余裕のなかで、すべての人に医療を受けてもらえるような体制を作ろうとしているからです。
─鳥取は人口が少ないから、多数のPCR検査や陽性者の全員入院ができるのではないですか。
それは違います。地方では、人材やベッド数などの医療資源は大都市と違って乏しい。だからこそ、危機感が強いわけです。広がってしまうとあっという間に堤防を破られてしまう。だから堤防を破られる手前のところで止める努力をどうやっていくかが、私どものような小さな自治体ではポイントになるのではないでしょうか。
この時期にきて全国は二極化してきています。多くの自治体は、我々のようにある程度感染をコントロールして、収まってきていますが、変異株対策でも、このような努力がポイントになるのではないかと思います。人口が少ないからこそ、先回りをして、病院を説得してベッド数を増やしていく。ベッド数は少ないかもしれませんけど、それだけ多くの病院に多くのベッドを提供していただいているということですね。片方で感染症の発生を抑える努力をしていたからこそ、医療資源の活用の余裕というかキャパシティが生まれてきた、というところが実際かな、と思います。(2021年2月中旬取材)
〔『中央公論』2021年4月号より〕
平井伸治
鳥取県は、日本で最も小さな県である。中国地方の片田舎としか認識されず、企業誘致を提案しても苦笑いされた。しかし大震災と新型コロナ感染拡大により時代の空気と価値観が変わった。鳥取を魅力的な場所と思ってらえるようになった。新型コロナ感染症対策では、ドライブスルーのPCR検査を導入し独自の施策を展開。クラスター対策条例なども施行し感染者が一番少ない県となった。本書では、小さな県の大きな戦いを徹底紹介する。
1961年東京都生まれ。84年東京大学法学部卒業。自治省(現総務省)入省。鳥取県副知事、総務省政党助成室長などを経て2007年鳥取県知事に。現在4期目。全国知事会新型コロナウイルス緊急対策本部本部長代行。著書に『小さくても勝てる』『鳥取力 新型コロナに挑む小さな県の奮闘』(3月25日刊行予定)がある。