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安藤優子×中北浩爾「女性総理は自民党の救世主か」

安藤優子(キャスター/ジャーナリスト)×中北浩爾(中央大学教授)

「自助」と「共助」を担うのは誰か

中北 安藤さんは著書で、なぜ女性議員がここまで少ないのかという疑問から出発し、2018年に「政治分野における男女共同参画推進法(候補者男女均等法)」が成立して、国会議員や地方議員の選挙で男女の候補者が均等となるよう各党に努力義務を課してもなお、自民党が「明らかに『均等』の理念に背を向けた候補者擁立」を続けていることを痛烈に批判しておられますね。


安藤 研究する中でヒアリングをした自民党選挙対策本部の関係者は、「ダンナの世話をしながら選挙戦を戦える女性がどの程度いるか?」「選挙資金と一定の支持者がいないと難しい」と、明らかに均等法には否定的でした。女は母であり嫁であり、イエに従属して家族のケアを無償で行うべき存在である、という思想が55年体制から現在まで、ずっと底流してきたのだと改めて痛感しました。


中北 世襲議員でない限り、イエに従属させられている女性が地盤、看板(知名度)、鞄(資金力)の「三バン」を得る機会はそもそもないということですね。


安藤 本の基になった博士論文を構想した時も、今も、自民党批判の研究ではないのです。私自身もマスコミ業界で生きてきて、どうしてこんなに異物として扱われるのかずっと理解できなかったのですが、政界を取材してみてようやくわかったのは、公的領域たる男の世界に私的領域から女が侵入してきたことへのハレーションなのだということでした。

 この「女は家庭という私的領域をまず守るべし」という社会通念の源流を辿っていったら、石油危機による景気後退で頓挫した田中角栄の「福祉元年」構想に代わって打ち出された、伝統的なイエやムラによる自助や共助で国家による公助を小さくするというビジョン「日本型福祉社会」に行きつきました。これは女性が家庭をケアすることが前提になっています。現在まで続く自民党の女性認識のベースはここにあり、だからこそ菅義偉政権が「自助・共助・公助」を打ち出した時には、またここに戻るのかと驚きました。


中北 安藤さんご自身の経験がバックグラウンドにあるからこその問題意識が、自民党の根幹をえぐり出していて、非常に読み応えがありました。取材先である自民党からの反発はありませんか?


安藤 ないどころか、自民党議連での講演や意見交換会などに何度も呼ばれました。いかにも「キャッチ・オール・パーティー」(包括政党)を自認する自民党っぽくないですか?


中北 まさに。どんな異論もひとまず包摂し、エネルギーに変えようとする。本気で改心するかは別にして、そのあたりは懐が深いですよね。


安藤 本当にその通りだと思います。旧民主党が主張していたはずの子育てや社会保障の政策も、安倍晋三政権がいつの間にか自分たちの政策にしてしまった融通無碍さからすれば、私の本くらいは歯牙にもかけないんだろうなと感じました。


中北 安藤さんがお書きになった話題の書、そんなことはないでしょう。


安藤 前総務会長の遠藤利明さんも読んでくださって、「自民党が抱えている問題が端的に指摘されている」と褒めてくださりつつ、「女性議員を増やすためには、選挙戦を懸命に勝ち抜いた現職の男性議員に立候補を辞退させないといけない。現実問題としてそんなことは言えない」と、現職を外してまで女性候補を入れることの難しさ、非現実性を指摘されました。

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