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安倍政権の7年8カ月を支えた首相秘書官が今こそ明かす「強い官邸」の作り方、そして財務省へのエール

今井尚哉(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)×牧原 出(東京大学先端科学技術研究センター教授)

通産官僚の誇りと矜持

牧原 最近は「ブラック霞が関」と言われるほど、官僚の過重労働が問題になっていますが、82年の入省当時はどうでしたか?


今井 5年働いてアメリカの大学院に留学したのですが、5年間の残業時間は毎月300〜400時間でした。通産省外局の資源エネルギー庁にいたときも、残業代はなく全員均等に数千円の手当がつく、そんな待遇でした。


牧原 労働条件とは別に強烈なやりがいがないと続かないですね。


今井 最初に配属されたのは、電源開発促進税法や電気事業法を所管する公益事業部総務課でした。まずこれらの法律と法解釈を、死に物狂いで勉強しました。エネルギー畑で一番詳しい役人になりたかったんです。「今井くんに聞かないとわからない。一緒に会議に出てくれ」と言われることが、若い役人にとっての誇りなんですよね。

 それができてはじめて、徐々に立法、つまり社会と経済の新しいルール作りや、産業政策もできるようになるわけです。


牧原 まさに『官僚たちの夏』で描かれた世界ですよね。


今井 その頃はまだCOCOM(対共産圏輸出統制委員会)があり、ちょっとした汎用品であっても、中小企業が技術開発した製品が輸出段階で止められてしまう。これは外務省にはわからない、通産省にとっての屈辱なんですよ。だから汎用噴霧乾燥器が生物兵器製造装置に転用可能な機器の輸出にあたるとして経営者が逮捕された大川原化工機の冤罪事件(2020年)なんて、私にとっては一番許せないんです。


牧原 法改正にあたり、大川原化工機は経産省のヒアリングに全面協力していたんですよね。なのに公安の捜査が始まったら、彼らは家宅捜索を容認してしまった。


今井 公安になんと言われようと身を挺して守るのが、通産省の責務だったはずです。

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