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「富岳」の正体② スパコン開発に必須な「技術への投資感覚」 

清水俊幸×聞き手:小林雅一
「富岳」(提供◎理化学研究所)
 日本の理化学研究所(以下、理研)と富士通が共同開発した「富岳」は2020年、スパコンの計算速度等を競う世界ランキングで2期連続の王座に就いた。巨額の開発資金、そして大規模な設計チームの並み外れた頭脳と集中力が求められるスパコン・プロジェクトは、その国の経済力や科学技術力など国力を反映すると言われる。
 拙著『「スパコン富岳」後の日本』(中公新書ラクレ)で詳述したように、現在の先端スパコンは「ペタ(・フロップス)」から「エクサ」への世代交代を迎えている。「ペタ」は一秒間に「10の15乗(1000兆)」回の科学技術計算を実行できる能力。「エクサ」は「1000ペタ」を意味する。米中は現在このエクサ級のスパコン開発を進めているが難航している模様だ。
 今回は、富士通の開発責任者・清水俊幸さんにお話を伺った(月刊『中央公論』2021年11月号から抜粋)。

いかに危機を乗り越えたか

─スパコンという大規模システムの開発チームをまとめるには、どのようなモットーや工夫が必要とされるのでしょうか。

 スケジュール感をしっかり工夫するのが大切です。重要なマイルストーンやシンプルなゴールを皆が共有できてこそ大きなチームが動いていきます。

─約一〇年間に及ぶ富岳の開発期間において、「これはまずい」、逆に「これはいける」と感じた瞬間はありますか。

 一番の危機は二〇一六年頃だったと思います。当初想定していた半導体テクノロジーでは目標とする消費電力や性能が達成できそうもないことがわかってきました。(スパコンの)開発プロジェクトというのは、スタート時点で五~一〇年先の技術レベルを推定して始めなければなりませんが、その予想が外れることも当然あります。二〇一六年頃にそれが判明した時は、(半導体の微細加工の指標となる「プロセスルール」と呼ばれる)テクノロジーを最先端の七ナノ・メートルに切り替えて難局を打開することができました。

─さまざまな困難に遭遇した時、そのブレークスルーとなるアイディアは開発チームの中からどのように出て来るのでしょうか。

 基本的には、設計や検証の現場担当者(エンジニア)が技術的に一番わかっているので彼らに任せています。

 もう少し大きな問題、つまり影響が広範に及んだり、方式に関わったりするものは、広く関係者を集めてブレーンストーミングをやりました。たとえば富岳の消費電力性能は、CPUやシステムの設計者、ソフトウェアの開発者らが集まってブレストしていろんなアイディアを出して、それを積み上げて目途を立てることができました。

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