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新利権集団が中国を暴走させる

座談会
清水美和(東京新聞論説主幹)×吉崎達彦(双日総合研究所副所長)×渡部恒雄(東京財団上席研究員)

世界金融危機で暴走段階に しかし不愉快もあと一五年

清水 中国は、ついに国内総生産(GDP)で日本を抜き、軍事力でもアジアでトップになった。国力は、まだまだ伸びる。そんな過程にあって、今後、外交だけは遠慮がちにやっていく、などということは、ありえない。対外強硬論への衝動を強めるのが中国国内の自然なトレンドで、国の指導者が誰に代わろうが、それに迎合せざるをえない。トウ小平路線への完全な回帰はありえない。日本をはじめとする周辺国やアメリカも、このことを前提としたうえで、どう中国と対していくのかを考える時期に来ている。

吉崎 私は、リーマン・ショックに端を発する国際金融危機が、西側はもとより、「勝った」と思っている中国にも深刻な悪影響をもたらしたのだということを、もう一度きちんと考えるべきだと思う。中国からみれば、「失敗したのは資本主義で、自分たちがやってきたことは正しかった」という総括なのであろうが、まさにその考え方がアサーティブな対応に結びついているわけだ。
 実際の流れを見れば、リーマン・ショック直前の〇八年七月の「ドーハ・ラウンド」決裂は、新興国の保護主義の風潮を決定づけた。その上でリーマン・ショックが起きた。その後の世界不況を乗り切るために、内陸部で公共事業を大増発し、金融の大緩和を行わざるを得なくなった。その結果、構造改革を行わなければならない国有企業や地方政府は逆に膨張し、資産バブルまで発生してしまった。中国の改革開放路線の流れは、これで一変してしまったわけだ。しかも、この過程でこれまで論じてきたように、大国主義の抑制はきかなくなり、中央が制御できない利益集団を台頭させてしまった。まさにリーマン・ショックが決定的な段階に中国を押しやったのである。
 他方、先進国の側はと言えば、もちろん日本もアメリカも、明らかに危機のルーザーなのだけれども、いまだにそれを認めないし、認める心の余裕も見いだせない(笑)。そろそろ、自分たちは中国に激しく追い上げられているルーザーなのだという、「不都合な真実」を受け入れなければいけない。そのうえで、適切な敗戦処理策を考える局面にあると思う。

渡部 アメリカには、中国が経済発展すれば相互依存が高まり、世界の統治に責任あるステークホルダー(利害共有者)になっていくという考え方が強くあった。それが幻想だったという認識が、どんどん広がっている。目が覚めてきた。今年の大統領府の「国家安全保障戦略」で、「世界をありのままにみる」と言っているのは、「不都合な真実を受け止めます」と、聞こえなくもないだろう。外交・安全保障のプロは、幻想から現実にシフトしようとしている。
 一方で、中国の軍事力増大は脅威ではあるが、少なくとも二〇年は、アメリは軍事的優位を保てるはず。吉崎さんは「敗戦処理」というネガティブな表現をしたが、まだ優位なうちに逆転されない手を打つことは、いくらでも可能である。鍵になるのは、日米関係と「プラスワン」、韓国、東南アジア諸国、インドやオーストラリアとの協調だ。中国が過度にアサーティブな姿勢を強めることで困るのは、アメリカや日本だけではないのだから。反対に、外で強力なタッグを組まれたらまずいと中国が認識すれば、対外路線の修正を図るかもしれない。

吉崎 ここで留意しておいた方がいいのは、順調に発展し続けてきた中国経済だが、そろそろ「ルイスの転換点」に差しかかっているらしいという事実だ。どんな新興国も、経済成長により労働者の賃金が上昇するにともない、成長率が屈折していく。二〇一〇年春に起きた大規模なストライキは、そのサインなのかという気がする。加えて、人口の増加もあと二〇年ほどで止まる。それに先行して生産年齢人口の減少は、今から数年後には始まる。実は、二〇二五年ぐらいには、アサーティブになりたくてもなれない状況に陥る可能性が高い。日本は老いる前に豊かになったが、中国は老いる前に豊かにはなれそうもない。
「不都合な真実」を突きつけられた日米だが、それもあと一五年、という見方もできる。この間、暴発しないでいてくれればいい。そういうふうに問題設定することもできるだろう。

渡部 先々二〇年ぐらいの範囲で考えれば、核抑止がきいている以上、中国が相対的に軍事力を高めようが高めまいが、大国同士の戦争は抑制された状態が続くと思う。軍事的に想定されるとしたら、今、南シナ海や東シナ海で起こっているようなつばぜり合いで、すぐに全面戦争に結びつくような性質のものではない。極めてやっかい、かつ気分の悪いことではあるが、そういう事態に一つひとつ対応しつつ、一五年、二〇年後を見据えるべきであろう。中国だって、たとえばレアアースを武器にしたと思ったとたんに、こっぴどく殴り返される、といった教訓を積んで、ルールを学んでいくはず。国際環境はまだ中国が意のままに振る舞えるものではない。むしろ、過度に悲観的になることのほうが、問題だと思う。

清水 しかし、チャイナズ・ドリームを背景とした対外強硬路線は、今後も継続されるだろう。不愉快なことは、これからもたくさん起きる。勝つことで力を示そうという衝動が、地域紛争を引き起こす可能性も否定はできない。ただ、だからといって、中国が日本やアメリカに本気で刃を向けてくるような事態は考えられない。そんなことをすれば自らの発展がそがれるという認識は、さすがに中国も持っている。

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