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四大卒も中小企業を目指せばいい

海老原嗣生(株式会社ニッチモ代表取締役)

「若者はかわいそう」論は間違い

 最近、大卒の就職難に関連して、「日本独特の終身雇用制が諸悪の根源だ」という話がまことしやかに語られている。つまりこういうロジックだ。

 日本の企業は終身雇用制を採っていて、正社員を解雇することができない。こうして老人たちの既得権益が守られているために、かわいそうな若者たちは職を得られない、あるいは非正規労働者になることを余儀なくされている。雇用をもっと流動化させて─はっきり言えば、使えない爺さんたちのクビを切って─その分、若者を雇うべきじゃないのか。

 結論から言おう。この話はでたらめだ。まず、その「流動的な雇用体制」を採用しているアメリカの失業率を調べてみると、日本よりはるかに高いことがわかる。日本の若者(二十五歳未満)の失業率は九%前後(全年齢平均は五%前後)なのに対して、アメリカの若者の失業率はなんと約二○%(同約九%)もある。つまり、アメリカやイギリスと同じように流動的な雇用体制とやらを採れば、若者の雇用が確保されるというロジックは幻想だ。

 さらに踏み込もう。実は、「若者の雇用が減っている」こと自体が事実無根のウソである。「老人たちに正社員枠を独占されている」「低成長時代に入り、年配層が定年になった人数分の雇用が生まれていない」という話は、なるほど、理があるように聞こえる。しかしデータを見てみれば、採用総人数も求人数も減っていないことは一目瞭然だ。文部科学省の「学校基本調査」によると、四年制大学・新規卒業者の正社員就職数は、一九八〇年代後半のバブル時代に二九万四〇〇〇人だった。それが二〇○八年には約三九万人にまで増えている。リーマン・ショックの影響があった〇九年でも約三八万人、最悪の就職氷河期と言われる今年も約三〇万人の就職が見込まれている。リクルートワークス研究所による「大学新規卒業者求人数」からも、同様の結果が見えてくる。バブル期の求人ピークは八四万人だったのに対して、〇八年には九四万人となった。同じように不況だった九四年と今年を比べても、前者が三九万人の求人に対して、後者は五八万人。ちゃんと景気の山と山、谷と谷を比べて長期トレンドを見れば、新卒雇用は増えているのだ。

 付け加えるならば、バブル時代と比べ、二十二歳人口は、三割弱減っている。同世代の人口が三割減っているのなら、採用数も同じように三割減っていたとしてもおかしくない。しかし、求人も、採用数は増えているわけだから、「今の若者はかわいそう」どころか、「今の若者のほうが得をしている」と言うことさえできるのである。

問題は「大学生の増え過ぎ」

 ここまでで確認したとおり、世間のイメージとは違って、長期トレンドで見れば、新卒者の採用数も求人数も増えている。ではなぜ今、新卒学生の就職が決まらないのだろうか。

 答えは単純である。大学生が増え過ぎたのだ。大卒の就職難の原因は、この事実に尽きる。大学生の数が増え過ぎたから、求人がどんなに増えても追いつかないのである。この二五年間で、大学の数はなんと七割も増えている。学生数も六割増。つまり雇用の増加をはるかに上回るスピードで、大学生の大安売りが進行しているというわけだ。

「就職問題」ということで一緒くたにして考えられてしまいがちだが、大卒の就職難と高卒の就職難は、まったく質が違う。大卒の場合とは違い、高卒は求人数が激減している。いわゆるブルー・カラー職、建設業、農林業、自営業、事務職といった高卒の人が多く就いた仕事が世の中から激減しているのである。しかしなぜ高卒の就職難がそれほど問題とされなかったか。その理由は、高卒自体の数も激減していたからである。そう、多くの人が進学をして、「大卒」になっていたわけだ。

 もし彼らが高卒として就職活動をしていたら、今の日本の就職問題はもっとわかりやすいものになっていたはずだ。「非ホワイト・カラーの仕事が減っている。彼ら向けの仕事を作ることはできないか」と。ところが彼らが大学進学をしたために、ねじ曲がった解釈をされてしまった。そして、「若者のホワイト・カラーの仕事が減っている」「正社員を減らして、非正規社員を増やした」といった現在の論調がまかり通るようになってしまったのだ。

 よくこんな話を聞く。いわく「グローバル化とIT化によって、日本の産業が外へ出ていってしまい、国内での職が減った」。しかしそれが当てはまるのはブルー・カラーであって、ホワイト・カラーは違う。世界売上が増えたため本社が肥大化し、しかも、海外支社や海外工場の管理要員として日本人ポストは増えている。トヨタ自動車もパナソニックも新日鉄も、グローバル化によって、日本人のホワイト・カラーの雇用者数は増え続けているのだ。

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