赤木智弘、古市憲寿に欠落した視点
佐藤 僕は一九八八年生まれで、研究テーマは御厨先生と同じ......というとなにやらおこがましいですが、日本政治外交史です。
御厨 私は五一年生まれですから、団塊の少し下の世代にあたります。佐藤君とは三十七歳差ということになる。
佐藤 御厨先生の・門下生・という縁で、今日は世代間格差について議論するということですから、まず世代間格差をめぐる「若者」の主張に触れておきたいと思います。
昨今の世代間格差の議論のなかで最も注目を浴びたのは、二〇〇七年『論座』に掲載された赤木智弘さん(七五年生まれ)の「『丸山眞男』をひっぱたきたい」だと思います。就職もままならない若者の現実を嘆き、現状を流動化させてくれる「戦争」を待望する──という過激な主張で大変に話題になりました。赤木さんは高齢者は強者、若者は弱者として対立の図式を描きました。社会保障制度などをやり玉に挙げ、なぜ裕福な高齢者層に我々が支出しなければならないのかと噛みついた。
それから二〇一一年には、社会学者の古市憲寿さん(八五年生まれ)が、『絶望の国の幸福な若者たち』を刊行しました。古市さんは、世代間格差はあるけれど、僕らの世代は幸せを感じているからそれでいい──というスタンスです。
御厨 なぜ幸せなのですか。
佐藤 身の回りのコミュニティーで充足できると。「村々(ムラムラ)する若者たち」と古市さんは表現しています。財政再建などの国家的な課題は、誰か改革したい人がすればいいというスタンスで、国家的、社会的、公共的なビジョンには関心を払いません。
この古市さんにおける公共性、国家の欠落は、赤木さんにも通じます。赤木さんも強者に対する弱者として若者側の要求を打ち出すところにとどまっていて、積極的に国家像というものをリビジョンしようという視点はありません。お二人の主張に共感は覚えますが、財政破綻をはじめとする課題の解決につながりません。
御厨 世代間格差問題を佐藤君自身はどうとらえているのでしょうか。
佐藤 大きな問題だと思っています。政府の一般会計予算案で、年金、医療などの社会保障関係費は政策向け経費の約四割を占め、いまなお増加の一途をたどっています。
社会保障関係費だけではありません。財務省の試算によれば一世帯あたりの公共サービスなどの受益と、税金などの負担について世帯主の世代ごとに比較すると、一九四三年以前に生まれた世代では、受益が負担を四八七五万円上回るのに対し、八四年以降生まれの世代では、負担の方が四五八五万円多く、その開きは一億円近い。国の借金はさらに増え続けていますから、我々の負担はますます重くなる。こうした現行制度を維持する必要を僕らの世代は感じられない。
御厨 引き受けたくないとなれば、今後は税金や保険料を払わないといった具体的な拒否行動に出るわけですか。
佐藤 現段階でそこまで具体的に考えているとは思いません。とはいえ、一億円近くも得している世代こそ財政再建のための負担をすべきだとは思っています。この負担が僕らに押し付けられる意味がわからない。ここに世代間格差に対する怒りが生まれます。この怒りの主たる矛先は、団塊世代とそのすこし下の御厨先生たちの世代です。
〔『中央公論』2012年7月号より〕