アテンションエコノミーの時代
トイレットペーパー不足のデマのように、炎上の対象が存在しなくとも社会に大きな影響を与えることがある。このような非実在型炎上はなぜ発生するのだろうか。
その要因の一つがアテンションエコノミーと呼ばれる、現代社会の基盤となる経済原理にある。アテンションエコノミーとは注目を集めることによって成り立つ経済のことであり、ネット社会の主流である広告モデルの問題点であるといえよう。
ネット上の多くのサイトでは広告モデルを用いている。利用者はコンテンツを無料で利用できるが、その代わり広告を見る必要がある。利用者がその広告を視聴、あるいはクリックしたり、そこから何かを購入したりすることによって、コンテンツの運営母体は金銭的利益を得ているのである。広告モデル自体は、テレビやラジオでも用いられている古くからのビジネスモデルであるため、目新しいものではない。しかしながら、ネット社会では「何回広告が表示されたか」「何回クリックされたか」「どの程度購入されたか」という情報がすべて利用され広告収入となるため、サイトを訪れる人の数が収入の増減に直結することとなる。
そのため、多くのサイトでは人をいかに集めるかが最重要事項となる。これもまた経済原理から考えて不思議ではない。ニュース記事を掲載する情報サイトでも同様である。ニュースサイトであれば「閲覧数の多い記事が良い記事」として評価を受けるだろう。しかし、これが行き過ぎた結果、「とにかく注目さえしてもらえれば記事の中身は関係ない」ということにもなりかねない。
このようなアテンションエコノミーは、非実在型炎上を生み出す土壌ともなっている。たとえ少数でもツイートが存在していれば「○○が拡散」と銘打って記事を作成することによって、そのような人たちがたくさんいるように誤解をさせることができる。そして、怒りを抱かせるような記事や、意見を書きたくなるような記事をSNS上で拡散させることができる。結果として、SNSからの流入によってその記事は多くのアテンションを獲得することが可能となるのである。
(『中央公論』2021年7月号より抜粋)
1976年生まれ、長野県出身。2004年、東京工業大学大学院理工学研究科機械制御システム専攻博士課程修了。博士(工学)。著書に『強いAI・弱いAI』など、共編著に『人狼知能』『計算社会科学入門』などがある。