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「さよなら、東京。押し付けてごめんね」 冷めたアメリカから見えた東京オリンピック 渡邊裕子

渡邊裕子(コンサルタント・ライター)

閉会式後の報道

 五輪閉会後の米メディアは、選手の健闘を称えつつ、大会全体については問題点を指摘し、五輪のあり方に疑問を唱えるものが多かった。

 例えば8月8日の『ニューヨーク・タイムズ』紙は、「五輪は始まった時と同じ調子で終わった。奇妙に」と題し、「最近の記憶にある限り最も奇妙な五輪の一つ」と書いている。

 同日の『ワシントン・ポスト』紙は、「(今回のイベントは)日本側の主催者が当初望んだものからは程遠かったかもしれないが、パンデミックで疲弊している世界中の人々が求めていた息抜き、喜び、感動を与えるものにはなっていた」と評価しながらも、「それでもなお、そこにあった虚しさ、寂しさ、苦味は、喜びや感動によって完全に打ち消されるようなものではなかった」と記す。

『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙は、安倍前首相の「人類が新型コロナに打ち勝った証しとしての五輪」とは程遠く、むしろ、ガラガラの客席の写真一枚一枚、五輪の一瞬一瞬に、ウイルスの存在の大きさを見せつけられたと指摘していた。

 米メディアでは、主催国・日本に対しては、批判もありつつ、概ね、困難な状況の中でリスクを抑えて大会をやり切ったこと、期間中に少なくとも感染爆発が起きなかったことへの評価が多かったように感じる。それよりも、批判の矛先は圧倒的にIOC(国際オリンピック委員会)に向けられていた。特に、日本国民の多くがコロナ下での開催に反対する中、強引に決行したことへの批判が多かった。誰のために、何のために五輪は開催されたのか? 日本は期待した観光収入・五輪特需もなく、膨大な経費を背負い、国内の感染も拡大している。IOCだけが得をしたのではないか、というものだ。

『ワシントン・ポスト』紙は、「IOCが、日本という嫌がる子供に五輪を無理矢理食べさせている様子は、誰が実際に権力を握っているのかを示している。五輪が主催国や主催都市の市民のためのものでないことは明らかだ。そうであったことなど一度もない」と痛烈に指摘。五輪を機に感染爆発が起きるかどうかはまだわからないが、IOCはそのリスクを日本と世界に押し付けたとし、記事は、「さよなら、東京。押し付けてごめんね」と締めくくっている。

 ただし日本についても、主催国であるにもかかわらず、ワクチン接種の開始とペースが遅かったこと、ワクチン接種率の低さ、感染が拡大し、緊急事態宣言下での開催の異様さを指摘するメディアは少なくなかった。

 

中央公論 2021年10月号
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渡邊裕子(コンサルタント・ライター)
〔わたなべゆうこ〕
米ハーバード大学ケネディ・スクール大学院修士課程修了。1993年渡米、96年よりニューヨーク在住。元ユーラシア・グループ日本営業部門長。2019年コンサルティング会社HSW Japanを設立。複数企業の日本戦略アドバイザーを務めるかたわら、執筆活動を行う。

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