売れること流行ること
そして三つ目のポイントは、こうした音楽消費の変化を踏まえた新しいヒットチャートが定着したことだ。
ミリオンヒットが続出した一九九〇年代から二〇〇〇年代にかけては、ヒットチャートとは、すなわちオリコンのランキングのことだった。オリコンが発表するシングルCDの売上枚数ランキングが、ヒット曲の指標として機能してきた。
しかし一〇年代に入り「CDが沢山売れること」と「曲が流行っていること」は、必ずしもイコールではなくなった。オリコンの年間シングルランキングでは、二〇一一年から一九年にかけて、全ての年においてTOP3をAKB48や関連のアイドルグループが独占している。よく知られているように、この結果は、一部のファンが同じCDを複数枚購入することによって実現したものだ。AKB48関連のグループのCDには、メンバーとの握手会に参加できる握手券や、一八年まで開催されていた「シングル選抜総選挙」の投票券が封入されていた。それを求めてファンが複数枚のCDを購入し、セールスを押し上げた。コアなファンは一人で何枚、何十枚、時には何百枚ものCDを買うようになった。
こうしてオリコンのシングルランキングの上位をAKB48や関連グループが覆い尽くす一方で、本当の流行歌がヒットチャートから見えなくなっていた。たとえば一四年には松たか子とMayJ.が歌った映画『アナと雪の女王』の主題歌「レット・イット・ゴー~ありのままで~」が、一六年にはRADWIMPSによる映画『君の名は。』の主題歌「前前前世」がヒットしている。しかし、これらの曲はどちらもシングルCDとしてはリリースされておらず、オリコンのシングルランキングには登場していない。
そんな中、オリコンに代わる新たなヒットチャートとして知名度を上げたのが「ビルボード・ジャパンHot100」だ。こちらはCDの売上だけではなく様々な指標を合算した複合型ソングチャート。アメリカで最も権威あるヒットチャートと言われる「ビルボードHot100」の日本版である。
ビルボード・ジャパンHot100は〇八年にスタートしている。当初はCDのセールス枚数とラジオのオンエア回数を合算することから始まり、一五年にYouTubeのミュージックビデオ再生回数、一六年にはストリーミングサービスの再生回数、一八年にはカラオケでの歌唱回数が独自の指標でポイント化されチャートに組み込まれるようになった。結果、一八年頃からは、オリコンランキングよりもこちらのほうが音楽の流行の指標を反映しているという認識が広まり、新聞やテレビ番組でもヒットチャートとして採用されることが増えていった。
また、オリコンも一八年十二月にはCDとデジタルダウンロードとストリーミングそれぞれの週間ランキング、そして三要素を合算した「オリコン週間合算ランキング」の発表を開始している。