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YOASOBI、あいみょん――ネットが生み出す才能とメガヒット 柴那典

柴那典(ライター、編集者、音楽ジャーナリスト)

あいみょんの「マリーゴールド」

 こうしたヒットチャートの整備によって「ランキングを見ても何がヒットしているのかわからない」と思われていた一〇年代前半から半ばまでの状況は徐々に後景化した。流行歌が世に戻ってきたのである。

 こうした変化を象徴するターニングポイントの一曲となったのが、二〇一八年八月にリリースされたあいみょんの「マリーゴールド」だ。この曲は決してCDが売れたわけではない。オリコン週間シングルランキングの最高位は二五位だ。しかしApple MusicやSpotifyの再生回数ランキングで一位となり、それが牽引する形でビルボード・ジャパンHot100でも五位(八月十五日付)にランクイン。そこから楽曲はロングヒットを続け、あいみょんは一八年の紅白に初出場を果たす。人気はそこからさらに広まり、一九年六月にはストリーミング累計再生回数が一億回を突破。国内アーティストとしては初の達成となった。

 兵庫県出身で、両親の聴いていた吉田拓郎や浜田省吾、尾崎豊、小沢健二などに影響を受けて音楽を志すようになったあいみょん。一九九五年生まれでありながら、彼女の歌う楽曲には七〇年代のフォークやニューミュージックを彷彿とさせるような懐かしい響きと普遍的なポップセンスが息づいていた。「マリーゴールド」の人気も、郷愁を誘うメロディと、「麦わらの帽子の君が 揺れたマリーゴールドに似てる」と淡い恋模様を夏の風景に重ねた歌詞の描写が決め手になった。こうして「ストリーミングサービスが生んだ最初のスター」となったあいみょんだが、その魅力は歌謡曲やJ-POPの時代から綿々と受け継がれているピュアな歌の良さにあったと言える。

 

(『中央公論』2021年7月号より抜粋)

柴那典(ライター、編集者、音楽ジャーナリスト)
〔しばとものり〕
1976年神奈川県生まれ。大阪音楽大学客員准教授。ロッキング・オン社を経て独立。雑誌、ウェブ、モバイルなど各方面にて編集とライティングを担当し、音楽やサブカルチャー分野を中心に幅広くインタビュー、記事執筆を手がける。著書に『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』『ヒットの崩壊』、共著に『渋谷音楽図鑑』がある。
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