コラムニストとは何者か 小田嶋隆✕オバタカズユキ
取材はする?しない?
ーーお二人の中に、自称、他称にかかわらず、コラムニストとはこういうものだ、という定義はありますか。
オバタ 定義というか、やはり、ナンシー関の存在が大きいですよ。テレビについてというお題では、私も書いていて、それなりの自負もありましたが、1本、2本はナンシーを超えるものが書けても、100本、200本は書けない。プロとアマチュアほどの差があるなあ、と感嘆していました。あと、小田嶋さんのコラムも先輩筋として大きかった。もっと先輩筋として、山本夏彦さんも大きかった。
小田嶋 山本さんはエッセイの名手でもありましたが、エッセイとコラムは違うものですね。エッセイは文豪や女優など、書き手の名前そのものに価値があるもので、「聞いて、聞いて、私ってね......」という内容が通用する。コラムはもっと大衆寄りで、市井のおっさんが森羅万象をテーマに、対象に寄ってドライに語る。論題としてはジャーナリストとたいして変わらないのだけど、一番の違いは取材しないことですね。コラムニストとは、取材をしないジャーナリストというぐらいのところで。
ーーひどい定義ですね。
オバタ 私は『別冊宝島』の出身だからか、幸か不幸か、取材するんですよ。かといって、ノンフィクションライター、ルポライターという自覚はない。
小田嶋 取材したものでも、オバタさんは直感で書いている原稿が多かったでしょう。
オバタ 確かに、あえて一人にしか取材しないでテーマを掘り下げていく、みたいな書き方もしていました。
ーー取材すると書きにくくなる、ということはありませんか。
小田嶋 それはあります。私の仕事でも取材ものが10分の1ぐらいはありますが、すごく出来が悪いです。というのは、せっかく会ってくれた人の悪口は、やっぱり書きにくい。そこに配慮しはじめると、事前に直感で思い込んでいたものから、どんどん離れていって、つまらないものになっていく。
オバタ その構造を打ち破りたくて、評論家の佐高信(さたかまこと)さんが絶頂期の時に『宝島30』で「佐高信辛口インタビュー」をやったんです。彼の著書を50冊ほど読んで、とにかく批判しに行った。「ここにはこう書いているのに、こっちではこう言っている。矛盾していませんか」みたいな突撃インタビュー。案の定、非常に気まずい雰囲気になって、気まずいまま原稿を書いて(笑)。佐高さんには原稿を見ていただきましたが、それでも赤字は入らなくて、あれは、受けてくださった佐高さんの懐が深かったですね。
小田嶋 雑誌文化華やかなりし頃の、喧嘩上等の時代ですよね。私も『罵詈罵詈(ばりばり)ー11人の説教強盗へ』という本で、ケチョンケチョンにけなす相手を11人決めて、ケチョンケチョンにやっつけた。私がアル中でいちばんひどい時代の仕事で、今見ると、我ながらびっくりしますよ。こんな本がよく出たな、と。
ーー小田嶋さんのプロフィールに通常、その本は書かれていないですね。
小田嶋 黒歴史ですからね。担当編集者が穂原(俊二)さん、アシスタントが枡野(浩一)さん、単行本の編集者が町山(智浩)さんという強烈な布陣で。(笑)
オバタ ああ、猛烈ですね。(笑)
小田嶋 当時は顔を知っていようがいまいが、知り合いだろうがなかろうが、書きたいことはどんどん書く、という機運のある時代だった。でも、その後、知っている人の批判は書かないものだよ、と業界がどんどん変わっていって。今は、リアルに知り合いになっていれば、直接批判されないと思い込んでいる書き手だって多くいるんです。
オバタ それはインターネットの登場が大きいですよ。昔は『噂の眞相』に書かれても、ふた月ぐらいしたら、みんな忘れていましたから。
小田嶋 だいたいソースと言えば、新宿ゴールデン街に集まる業界人の噂で、裏を取ってないけど、そのあたりの情報がいちばん面白い。まったくのウソじゃなくて、7割が本当、3割が真っ赤なウソという配分の。
オバタ 「一行情報」に私も情報を流したこと、あります。(笑)
小田嶋 私も『噂の眞相』には、ひどい話を書いていました(笑)。でも、苦情もそんなに来なかったです。手紙ぐらいは来ていたかもしれないけど、編集部も私も相手にしていなかった。ただ、当時でも訴訟はあったけれど、今だったら訴訟だらけになりますね。ですから、インターネットの登場によって、書いたものへの責任というプレッシャーは急速に強まった感がありますよね。
撮影:荻原浩人
1956年東京都生まれ。早稲田大学卒業。1年足らずの食品メーカー勤務を経て、テクニカルライターの草分けとなる。『小田嶋隆のコラム道』『ポエムに万歳!』『ザ、コラム』『上を向いてアルコール』『小田嶋隆のコラムの切り口』『日本語を、取り戻す。』など著書多数。
◆オバタカズユキ〔おばたかずゆき〕
1964年東京都生まれ。上智大学卒業。一瞬の出版社勤務を経て、フリーライターとなり、社会時評、取材レポート、聞き書きなどを執筆。著書に『何のために働くか』『大手を蹴った若者が集まる知る人ぞ知る会社』『早稲田と慶應の研究』など。監修書に『大学図鑑!』シリーズがある。
構成◆清野由美
著書に『人生の諸問題五十路越え』(小田嶋隆・岡康道との共著)など。