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安東能明 静岡県で冤罪事件が多発したのはなぜか。その背景にいた『昭和の拷問王』の正体に迫る

『蚕の王』著者、安東能明氏インタビュー
安東能明

――優秀な刑事であったはずの紅林は、なぜ悪事に手を染めるようになったのでしょうか。

1941年に発生した、浜松事件と呼ばれる4件の連続殺傷事件をきっかけに、紅林は変容を遂げました。

『蚕の王』(著:安東能明/中央公論新社)

この連続殺傷の3回目の被害者は、犯人の家族でした。事件発生時、紅林は現場にいた犯人から事情聴取をおこなったにもかかわらず、見逃してしまいました。このとき逮捕していれば、4回目の犯行は起きなかったのです。

そんなミスをしたにも関わらず、事件解決時に紅林は功労者として検事総長賞を受賞しました。紅林自身も事件解決の手柄を誇張するようになり、やがて警察内で絶対的な権威を持つようになったのです。

浜松は当時全国有数の養蚕地で、蚕を育てている家がたくさんにありました。実際に聞いたことがあるのですが、夜の闇の中で蚕が葉を食べる音だけが響いてくるさまは、とても不気味なものです。

そんな土地から「拷問王」と呼ばれる怪物が生まれたという想像から、『蚕の王』というタイトルをつけました。

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