恩師と教え子が語る、原一男監督の教え。「カメラは必ず正面から撮れ」とは真逆の行動をした理由
生き方として提起される「個」の解放
満若 それで今回、小林先生にお会いするということで学生時代のことをいろいろ思い出したんですけど。もしも、あのときの先生が原さん、小林さんでなかったら、ぼくはドキュメンタリーはやってなかったかもしれない。なぜかというと、「ドキュメンタリーとは何であるのか」とった大上段から教えるのではなくて、「まず現場でやってみろ」と地に足のついた教え方をしていただいて。肉体で映画をつくるという教え方をしていただいたから、ドキュメンタリーの面白さに気づけたと思うんですね。
あと、先生が書かれたこの本(『映画と仕事 極私的疾走の軌跡』)ですが、小林さんの壮絶な人生が詰まっていて。読ませていただいて、ぼくが撮った映画につながっているものがあるなと思いました。それは、原さんも小林さんも「個」を大事にされている。ものをつくるにあたって、既成概念にとらわれるなということとか、そうした精神は受け継いできたつもりなんですね。
この映画でも個々の語り、いわゆる「部落民」というカテゴリーで部落出身者を視るのではなくて、まずはそこに生きるひとりひとりの「個人のはなし」を紡いでいきたいという。集団ではなくて、「個」がまず先にある。そういった精神性は、原さん、小林さんの「個」の解放を、生き方として提起されてきたことと通じるものがあると思っています。
小林 わたしたちも、土本(典昭)さん、小川(紳介)さんがいてドキュメンタリーをやろうと思いましたからねえ。それに原さんがもし撮ったとしても『私のはなし 部落のはなし』のようにはならない。これは、わたしたちにはぜったいできない。小気味よく画が重なっていくのと、それに満若さんとは40歳以上も年が離れている、だからこの年齢でないとつくれない作品だと思いました。作品として惹きつけられる魅力があるなあと。