話すハードルを下げる
――2022年4月から、「みんなでしゃべるとニュースはおもしろい」をキャッチコピーとして掲げています。
番組で伝えてきたことを、やっと言語化できた感じですね。「言論」「討論」と言うとハードルがすごく上がってしまうと思うんです。知識はもちろん、その人の立場や生き方、発言の一貫性など、〝参加資格〟が厳しく問われるような感覚がある。「アベプラ」は友達と飲み屋でしゃべっているようなカジュアルさでありたくて、それを表現したかったんです。
――裏を返せば、今までメディアではニュースについて"みんなでしゃべる"ことができていなかったという問題意識があったのでしょうか。
ありますね。番組によっては事前にコメントをすり合わせて、「ここは30秒でお願いします」と台本で決まっていることもあります。「アベプラ」では「こういうコメントをしてください」という指示を出すことはありません。
もちろん、どんなことを話すつもりなのか事前になんとなく聞いてはいますけど、蓋を開けてみたら全然違うことを言う人もいっぱいいるし、それがいいと思っています。意見を用意していても、スタジオで共演者の話を聞いていたら変わることもある。そのほうが健全ですよね。見逃し配信があるので「言っていることが前と違う」と視聴者から指摘もされますが、人ってそういうものだし、それを許容していかないと、誰も発言したくなくなってしまうと思います。
――近年は専門家以外のいわゆる「門外漢」や「素人」がコメントすることへの批判が増えています。
「じゃあ専門家だけの番組を若い世代が観ますか?」と思いますね。そういう番組もありますけど、実際にどれだけ観られているのか。やっぱり観てもらえないと始まらないんです。
僕のように報道が好きな人間の根っこにあるのは、「みんなもう少し社会に関心を持ってほしい」という思いです。知ってほしい、考えてほしい、行動してほしい。そのためにはいろんな意見があふれているほうがいいと思います。世の中は専門家だけで回っていないし、人の数だけ視点がある。間違っていたら後で謝ればいい。そういう場を体現したいという思いはあります。でもやっぱり、「専門家以外にコメントさせるな」「なんでこいつを出すんだ」みたいな意見はすごく来ますよ。
――たとえば金曜日のMCを務める西村博之(ひろゆき)さんには賛否両論の評価があります。彼を番組の看板とすることで離れる視聴者もいるのでは。
たしかに、そうかもしれません。でも、支持する人がいたらいたでいいし、支持しない人がいてもいい。ひろゆきさんを好きな人、嫌いな人は世の中で半々くらいだと思うんですよ。嫌だと思うなら、むしろなぜ嫌なのかを考えてほしいというのが番組の本質的な狙いではあります。
それに、出演してもらっているからといって、番組が彼の意見を肯定しているわけではないし、逆に否定しているわけでもないことはお伝えしたいですね。観ている人からしたら一体化して見えるのもわかるんですが。それはひろゆきさんに限らず、どの出演者でもそうです。
――視聴者側のリテラシーに委ねるということですね。
なかには熱狂的に観てくれる方もいらっしゃいますし、「番組でこう発信していた」「○○さんがこう言っていた」=「これが正しいんだ」と受け止める人も多い感触はあります。でも僕らは正解を提示しているのではなく、あくまで一つの見方を提示しているつもりです。だからこそ、視点を増やすためにも多くの人に出てほしい。「私からはこう見えている」という、いろんな見方を伝えたい。「あの人はこう言っていて、この人はこう言っていて、僕はこう思う」と、視聴者にとって番組を〝使える〟ものにしたいと考えています。
(続きは『中央公論』2024年4月号で)
構成:斎藤 岬 撮影:種子貴之
1987年神奈川県生まれ。早稲田大学卒業後、テレビ朝日に入社。情報番組ディレクターや社会部記者を経て、2016年にAbemaTV(現ABEMA)開局に参加し、現職。