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殴るか、殴られるかの本気の論争だから分かり合えた

田原総一朗(ジャーナリスト)
田原総一朗氏
(『中央公論』2024年4月号より抜粋)
  1. 萎縮するメディア
  2. 論争とは喧嘩である

萎縮するメディア

――1987年に放送が開始されて以来、現在まで続く「朝まで生テレビ!」や、89年から2010年まで放映された「サンデープロジェクト」など、田原さんは主に民放テレビで「議論」の場を作り、参加してきました。とくに「朝生」は政治家や官僚から、学者や評論家、作家や芸術家、運動家や宗教家まで、幅広いジャンルの論者を視聴者に紹介した番組でもあります。テレビというメディアでの言論をリードしてこられた田原さんの目には、現在の論壇やメディアはどう映っていますか。


 非常に萎縮していますね。第2次安倍政権の時に、総務大臣だった高市(早苗)さんが安倍(晋三)さんの意向を忖度して、放送内容に偏向があれば放送局の電波を停止すると発言してから、一気にテレビ局や新聞社が萎縮しました。


――16年2月の衆議院予算委員会で、野党議員から「国論を二分する政治課題について、放送局が一方の見解のみ取り上げて、相当の時間にわたって放送した場合、電波停止になる可能性はあるか」と質問された高市総務大臣が、「政治的な公平性を欠く放送を繰り返し、行政指導でまったく改善されない場合は、何の対応もしないと約束するわけにいかない」と返答した一件ですね。


 そう。局の放送全体ではなく、一つの番組でも非常に偏向していたら停波する可能性があると言ったわけ。その発言の前から、政府に批判的な発言をした司会者が降板させられたりしていましたが、さらにそうした萎縮ムードが強まりましたね。


――安倍政権で萎縮ムードが強まった要因はどこにあるとお考えですか?


 安倍さんがそれまでの官僚主導から脱却しようとして、(国家公務員の人事をまとめて管理する)内閣人事局を作ったでしょう。そこから官僚たちがみな官邸に忖度するようになってしまった。高市発言もその一つで、ここまで言論の自由を否定する言葉が、国会の答弁で堂々と出てきてしまった例はなかなかない。


――田原さんご自身もプレッシャーを感じましたか。


 プレッシャーがあったほうが面白いから、よけいにやる気になるわけだ(笑)。高市さんの発言でも分かるけど、テレビ局って結局のところは国から免許もらってやっている事業ではある。でも、免許事業の枠の中で言いたいことを言うから面白い。

 僕は1977年にフリーランスになる前は、東京12チャンネル(現在のテレビ東京)でドキュメンタリー番組のディレクターをやりながら雑誌や月刊誌に連載をしていて、その中で原発をテーマに取材しているうちに、原発推進運動のバックに大手広告代理店がいることに気づいた。

 それで連載で代理店について書いたら、代理店がカンカンに怒って、連載をやめるか田原を辞めさせるかしないと番組にスポンサーを付けないぞと脅してきた。でも僕は原発批判もやめなかったし、会社も辞めなかった。そうしたら直属の部長から局長までが処分されて、自分が辞めざるを得なくなってしまってね。

 そういうプレッシャーはあったけど、会社を辞めてからは言いたいことは全部言っています。「朝生」でも天皇制や部落差別、宗教などそれまでの言論界ではタブーとされていたテーマを扱った。それで抗議を受けたこともあったし、制作スタッフは大変だったと思う。僕はやりたいことをやってきたし、言いたいことは言ってきたからね。

 雑誌や新聞は、印刷までの段階で政府の干渉が入る余地があるけど、僕の番組はみんな生放送でしょう。放送されるまで政府は何も知らないわけだから、自由に何でも言えるんです。

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