殴るか、殴られるかの本気の論争だから分かり合えた

田原総一朗(ジャーナリスト)

論争とは喧嘩である

――「朝生」は出演者が怒って退席したり、観客が出演者につかみかかったりと、何が起こるか分からない緊張感が初期からありました。


 パネリストでも大島渚さんや野坂昭如さんは、テレビ朝日を潰そうと思って来ていたから。彼らの起用には、僕は反対したの。テレビ局や番組を潰そうと思って番組に出る人なんて今はいなくなりました。


――なぜお二人は「潰そう」と思っていたのですか?


 マスコミが変われば日本は変わる、と考えていたんだと思う。それは僕もそうで、本気で日本を変えようとして「朝生」も「サンデープロジェクト」もやっていた。

 僕の番組によって3人の首相を退陣に追い込みました。最初は91年。山崎拓さん、加藤紘一さん、小泉純一郎さんのいわゆる「YKK」に出てもらって、彼らが海部俊樹首相を「経世会の傀儡」と批判したことから、海部おろしの機運が一気に高まった。

 次が93年。宮澤喜一首相に民放代表としてインタビューして、「政治改革を必ずやる」と言質を取ったのだけど、宮澤政権では実行できずに選挙で負けた。

 最後が98年。橋本龍太郎首相に「恒久減税はやるのか」と迫って、彼が答えられなかったから政権の迷走がはっきりして、参院選で負けた。

 どれも別に失脚させようと思ってやったわけじゃないし、宮澤さんや橋本さんには個人的に尊敬の念もあったけど、視聴者の知りたいことを遠慮なく聞いたらそうなってしまったんだよね。

 でも首相を3人失脚させても、日本は変わらなかった。本人と顔と顔を突き合わせて真剣勝負するスタイルは変わらないけど、日本を本気で変えるという気持ちは、僕もだいぶ歳を取って、少し変化してしまったかもしれないね。


――それでもやはり対面で話を聞くスタイルなんですね。


 そう。今でも取材はできるかぎり、相手が首相だろうが大臣だろうが次官だろうが、リモートじゃなく実際に会って話を聞きたい。殴れる距離、殴られる距離じゃないとつまらない。大臣や役人が殴りかかってきたら、面白いでしょ? 論争は喧嘩だと思っているから、ツバがかかる距離じゃないとつまらない。


――そもそもツバがかからないためのリモートですから。(笑)


 でも今はなんかね、喧嘩は良くないって雰囲気なんだよね。論争も仲良くしようという感じで。喧嘩するから仲良くなれるんだと思うんだけど。大島さんや野坂さんともやり合ったし、こっちが反論すると、さらに叩き潰しに来たけど、番組が終わればアッケラカンとしてた。でも今の人たちは、僕が反論してもその場ではあまり反論してこなくなった。こちらがおじいちゃんだから、遠慮してるのかもしれない(笑)。で、あとからSNSで反論されたりするんだけど、僕はネットをまったく見ないから、周囲から教えられて聞くだけ。僕は批判してくれる人が大好きだから、じゃあ直接話しましょうと取材や対談を申し込むんだ。

 この前も、前明石市長の泉房穂さんが「朝生」に出演したあとに、雑誌で僕のことを批判していたので、彼の事務所に「指摘してくれてありがとう」って電話したんだよね。そうしたら泉さんが「田原さんは、やはり凄い方だ」とX(旧Twitter)に投稿して、それを読んだ出版社が対談を企画してくれたんだよね。泉さんはもともと「朝生」のディレクターだった人だから、お互いに尊敬の念があった上で、僕に諫言してくれたわけ。今はそういう人はあまりいなくなってしまったな。


――田原さんが注目している論客はいますか?


 大空幸星(おおぞらこうき)さんとか、たかまつななさんとか、面白いよね。彼らは本気で世の中を変えようと思っているから。ジャーナリストでも政治家でも、世の中を変えるために命をかけている人は少なくなったような気がしますね。


(続きは『中央公論』2024年4月号で)


構成:柳瀬 徹 撮影:種子貴之

中央公論 2024年4月号
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田原総一朗(ジャーナリスト)
〔たはらそういちろう〕
1934年滋賀県生まれ。討論番組「朝まで生テレビ!」や「激論!クロスファイア」などの司会を務める。泉房穂氏との共著『去り際の美学』が近日刊行予定。
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