女性の消費行動を世間はどう見る?
藤谷 一方で、女性が主体の消費行動が注目されるようになった結果、アイドルもメンズコンセプトカフェもホストもソーシャルゲームも区別なく、「推し活でたくさんお金を使う若い女性」みたいな、フワッとしたイメージで社会問題のように語られる場面も増えた。常々思っているのですが、AKBブームの頃、人気投票券目当てにCDを大量に買う男性オタクに対して「お金を使いすぎるのは良くない」という指摘はそこまでありましたっけ? ところが昨今の推し活ブームにはそうした批判が出てくる。「推しにのめり込みすぎて身を持ち崩し、夜職・パパ活に......」なんて連想ゲーム的に語られてしまう。
西村 根底には、「早く結婚すればいいじゃないか」という保守的な価値観があるのではないですか。「女性がお金を使いすぎるのは良くない。ほかに使い道があるでしょう」と言われるときに、じゃあそこで「ほかの使い道」とは何かと言えば、やはり家でしょう。実家であれ、自分の家庭であれ。
藤谷 おそらく世間は暗にそう言っていますよね。それは心配という名のパターナリズム(権力関係における強者が、弱者の利益を名目として、本人の意思に反して行動に介入・干渉すること)ですよ。
同時に、金払いの良い消費者として期待されている側面もあります。私のSNSのタイムラインには、「推しの動画を見すぎて目が疲れたら、この目薬!」とか、「推しの出演番組を見逃さないためのレコーダー!」みたいな広告がたくさん流れてくるんです。これは私のSNSアカウントのアルゴリズムの問題でもありますが(笑)、消費行動が全部推し活に紐付けられている。強い感情が消費行動につながるのは当然の流れですが、お金が前面に出すぎたらつまらないですよ。
西村 企業側としては、「自分の好きなことに好きなだけお金を使える層」へのアプローチが課題なんでしょうね。近年の文芸誌の特集を見ていても、これは比較的若い独身女性もターゲットに含めた企画なんだろうな、と感じることが間々(まま)ありますし。
(続きは『中央公論』2024年5号で)
構成:斎藤 岬
1981年山口県生まれ。工業高校を卒業後、自衛隊に入隊。その後職を転々とし、フリーランスのライターに。著書に『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』、共著に『バンギャルちゃんの老後』『すべての道はV系へ通ず。』など。
◆西村紗知〔にしむらさち〕
1990年鳥取県生まれ。東京学芸大学教育学部芸術スポーツ文化課程音楽専攻(ピアノ)卒業。東京藝術大学大学院美術研究科芸術学専攻(美学)修了。「椎名林檎における母性の問題」で、すばるクリティーク賞受賞。