玉石混淆の遭難系動画
登山の第一歩は、山の情報を収集して計画を立てることから始まる。そのための強力なツールとなるのがインターネットだ。これを活用すれば、アプローチに利用する交通機関、山の状況、コースタイム、宿泊する山小屋、天気予報など、あらゆる情報が手に入るといっても過言ではない。
注意しなければならないのは、「ヤマレコ」や「YAMAP」などの登山コミュニティサイトや個人のブログから得られる情報である。これらには個人の山行記録が大量に投稿されており、目的の山に関する直近の投稿をチェックすることで、最新の情報が容易に入手できる。だが、ネット上に溢れる個人の山行記録は、客観性を重視したガイドブックの記述とは異なり、あくまでその人の主観で書かれている。だからその人が書いていないこと、見落としているものがたくさんあってもおかしくないし、その人が「楽勝だった」と感じたコースが、ほかの人にとってはとても難易度が高く感じられることだってある。
そもそも個人がネットで発信する情報には、「どうだ、すごいだろう」といった自慢が見え隠れしており、そのぶんしばしば内容が盛られがちになる。その情報を100%信じ込んでしまうのは危険であり、あくまで参考程度にとどめるべきだろう。
また、近年は登山に関するさまざまな情報──登山技術やコースガイド、山岳遭難事故など──を扱った動画を目にする機会も増えてきた。YouTubeにもその類いの動画が多数公開されている。ある山岳遭難救助関係者の話によると、こうした動画に影響を受けた一部の人たちが、ヘルメットに小型のアクションカメラを装着し、Light & Fast(装備を軽量化しスピードを重視するスタイル)の出で立ちで、北アルプスなどの難ルートに挑んでいるのをよく目にするそうである。だが、頼もしいのは外見だけで、足取りは今にも滑落しそうで危なっかしく、思わず声を掛けてしまうケースがままあるという。そういう人たちは、ユーチューバーが峻険な岩場を颯爽と歩いている動画を見ただけで、つい自分でもできるような錯覚に陥ってしまうのだろう。
そんななかで、最近とくに問題となっているのが遭難系動画である。これは、過去に起きた遭難事故を、アニメーションやイラストを使って検証するというもので、「実際に起きた事故から教訓を得ることで事故の再発を防止する」ことを建前上謳っている。
しかし、その作り方があまりにひどい。まずこれらの動画の多くは、書籍や雑誌の記事を安易にパクって作られており、著作権を侵害していると思われるものが見られる。また、再生回数を稼ぐために、センセーショナルなタイトルやサムネイルが付けられていて、事故の当事者や遺族は不当に貶められ、二次被害の様相を呈している。さらには、遭難者の言動や事故の経緯などについての脚色が過剰で、事実を捻じ曲げて伝えている動画も少なくない。
YouTube上には、同一の遭難事故を題材にした、似たり寄ったりの内容の動画が溢れているが、それは遭難事故を防ぎたいからではなく、再生数を稼いで儲けたいからだ。もし過去の遭難事故から教訓を得て自分の登山に活かしたいと考えるのなら、小金稼ぎを目的に作られた遭難系動画を見るのではなく、パクられている原典の書物や記事をじっくり読み込むことをお勧めする。