"好きを仕事に"の二面性
ニシダ 『なぜ働』で、『13歳のハローワーク』を取り上げていますよね。まさに自分が子どもの頃に大ヒットしていた本なので、そのあたりは特に自分ごととして面白く読みました。
三宅 家にありました? うちはありました。
ニシダ ありました、親が買っていましたね。そういうふうに考えたことはなかったけど、あの本によって「仕事で自己実現することが大事」と思わされた世代なんだ、と気づかされました。確かに同世代の友人たちには、新卒で大企業に入ったけれど自己実現のために辞めて独立した人がわりといるんですよ。自分が仕事で関わる人たちも、「面白いものをつくって認められたい」と、まさに自己実現を目的として業界に入ってきた人が多いです。
三宅 テレビ局や出版社で働くにしても、「高収入だから」ではなく、「好きだから」で入ってくる人が多い世代ですよね。この本を書く中で『13歳のハローワーク』の存在を久しぶりに思い出したとき、あれを読んでいた子どもたちが大人になる頃にYouTubeの「好きなことで、生きていく」(2014年に展開されたCMのキャッチコピー)が世に出たんだな、と気づきました。
ニシダ 影響は大きいですよね。「なりたい職業に就いた人が勝ち」という雰囲気が、自分たちの世代にはあるんだろうなと思います。
三宅 ニシダさんは昔からお笑い芸人になりたかったんですか?
ニシダ いや、全然そんなことはなかったです。大学のお笑いサークルで相方のサーヤと出会って、そこからの成り行きというか......。ラッキーだった部分は正直ありますね。相方がネタを書いてくれたり、運良くマネージャーがついてくれたりしたおかげでここまでやれています。自分ひとりでネタを書いて芸人になっていたかと言われたら、ならなかったように思います。
三宅 私自身は〝好きを仕事に〟した人間です。好きなことを仕事にして自己実現を果たそうとするあり方のリスクを書いておきながら、自分がいちばんそうだな......と思うときがあるのですが(苦笑)、一方でそれ以外に道はなかったような感覚もあるんです。自己実現の呪いみたいなものが存在する世代だとは思うのですが、それが100%悪かというとそうでもないんですよね。
ニシダ 好きなことだからこそ適性があるパターンも多いですよね。本をいっぱい読んでいる人のほうが文章を書けるだろうし、お笑いをいっぱい観ている人のほうがネタをつくれるだろうし。〝好きを仕事に〟というのは必ずしも悪いことではないように僕も思います。
(続きは『中央公論』2024年8号で)
構成:斎藤 岬
1994年高知県生まれ。京都大学大学院人間・環境学研究科博士前期課程修了。会社員を経て、2022年独立。『娘が母を殺すには?』『30日de源氏物語』など著書多数。
◆ニシダ〔にしだ〕
1994年山口県生まれ。上智大学外国語学部中退。お笑いコンビ・ラランドのツッコミ担当。年間100冊読む読書家。2023年短編集『不器用で』で小説家デビュー。