政治・経済
国際
社会
科学
歴史
文化
ライフ
連載
中公新書
新書ラクレ
新書大賞

高低差、Y字路、地名......まち歩きが楽しくなる七つの地理の見方

重永 瞬(京都大学大学院博士課程)

都市の凸凹に目を向ける

 まず紹介したいのが、「高低差」に目を向ける歩き方である。私たちが生活するまちは、実に起伏に富んでいる。東京における山の手と下町の違いを考えてみれば分かるように、地形はそのまちの雰囲気にも影響を与える。山の手のなかでも、台地と低地ではまちの成り立ちが異なる。江戸の場合、本郷のような台地には大名屋敷や社寺が置かれたのに対し、神田のような低地には町人地が展開される傾向があった。そうした差異は近代以降にも引き継がれ、台地には官公庁や大学などの大きな施設が設置される一方で、低地は零細な商店が集まる庶民的なまちへと変化していった。

 渋谷のような山の手の低地には、たいてい蓋をされたり地下化されたりした水路、すなわち「暗渠(あんきょ)」がある。暗渠の上には、かつてそこが川であったことを示すさまざまなサインが隠れている。例えば、やけにマンホールが多い道。これは暗渠の可能性が高い。暗渠が下水道として現在も利用されている場合、排水パイプのような関連設備が地上にも現れる。また、川に蓋をしただけの暗渠の場合、過度な荷重には耐えられない。そのため、車止めが設けられる暗渠は多い。ほかにも、道に対して背を向けた家が多いことも暗渠の可能性を示すサインとなる。

 暗渠はえてして、裏道的なひっそりした雰囲気をまとっている。人通りが少ないがゆえに、近隣住民が自由に私物を置いたり、猫がたたずんでいたりする。暗渠に詳しい本田創氏は、こうしたさまざまな要素が作り上げる景観を「暗渠スケープ」と呼んでいる。当然のことながら暗渠は線状にのびているので、散歩をするにはぴったりだ。

 高低差を確認するには、国土地理院のウェブ地図「地理院地図」が便利である。「自分で作る色別標高図」という機能を使えば、標高ごとに色分けした地図を簡単に作ることができる。地形分類図や土地利用図も表示できるので、いろいろな地図を見比べながらまちを歩いてみてほしい。「スーパー地形」というスマホアプリは、地理院地図以外にもさまざまな地図が収録されており、非常に有用である。


(『中央公論』2月号では、残りの②地名、③参道、④Y字路、⑤注意書き、⑥舗装、⑦音風景の見方をやさしく紹介する。)

中央公論 2025年2月号
電子版
オンライン書店
重永 瞬(京都大学大学院博士課程)
〔しげながしゅん〕
1996年京都府生まれ。まち歩き団体「まいまい京都」でツアーガイドを務める。京都大学地理学研究会第7代会長。著書に『大阪市天王寺区生玉町におけるラブホテル街の形成と変容』『統計から読み解く色分け日本地図』『Y字路はなぜ生まれるのか?』がある。
1  2