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黒川博行×後藤正治「司馬遼太郎、池波正太郎、藤沢周平......時代を築いた昭和の作家たち」

黒川博行(作家)×後藤正治(ノンフィクション作家)

禁欲の人

黒川 藤沢さんは特に女性を書くのが巧い。僕はよう書かんから、余計に羨ましく思う。


後藤 藤沢さんはそんなに女性体験が多いと思わないけど(笑)、たしかに女性の機微を描くのが巧い。


黒川 女性作家が書いた男性を男性が読んで違うと思うこともある。だから、藤沢さんが描く女性をいいと思うのは男の勘違いかもしれない。でも、男が書いた小説の中での女性という点ではひどく巧いなと思う。


後藤 藤沢さんの描く女性は、男の目から見てこうあって欲しいというものになっていますよね。


黒川 そうやね。


後藤 だから、女性を全的に書いているわけではないのかもしれない。


黒川 あと僕がミステリーを描いてるから、ミステリーが好きなのがよう分かる。もちろん、ミステリーそのものというわけではないけど、どの作品にも伏線を張ってそれを回収するという構成がある。


後藤 構成力というか筋立てが論理的なんです。小説として破綻してしまうものが初期の頃からない。


黒川 欧米のミステリーを読んでいたんよね。


後藤 屈指の読書家でした。


黒川 もう一つ思ったのは、自分はこうして小説を書いた、というエッセイが多い。僕は自分の小説について書いたエッセイなんて一つもない。大阪人は恥ずかしくてよう書かん。それが不思議に思った。


後藤 それは今回僕が少々無理矢理に探し出してきたこともあるかもしれない。


黒川 後藤さんも、自分の作品については書かないでしょ。


後藤 ええ。ただ歴史小説、時代小説は通常の創作と違いがあり、藤沢さんなりの問題意識があって、エッセイを書かれたのかもしれない。


黒川 藤沢さんは正直なんや。生真面目で正直。僕は噓で生きてるからあんなことできん。(笑)


後藤 創作の周辺はエッセイなどで書いておられるけど、本当のコアの情念的なものをさらけ出しているわけではなくて、そこは小説から読み解くしかないんだと思うんです。生前お会いできなかったのは残念ですけど、でも会ったからといって作品論が書けるわけではない。

 黒川さんは静謐という言葉を使いましたけど、シャイで禁欲的、かつ生真面目で、目線が低いというか。あれだけ大家になっても、ひかえめだった。だからああいう作品が描けたんじゃないかと思いますね。


黒川 何かのエッセイで読んだのは、午前中と午後に原稿用紙5枚ずつ書いて、一日で10枚書く。僕が遅いというのもあるかもしれないけど、とにかく速い。なおかつあれほどの文章を書くのはたいしたもんですよ。この人ほかに博打とかやることないんかいと思った。


後藤 いわゆる道楽なんてなかったと思いますね。


黒川 小説が大好きだったんでしょうね。小説を書くことがあの人にとっては娯楽やった。僕とはえらい違いや。(笑)

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