(『中央公論』2025年10月号より抜粋)
6月公開の映画『国宝』(李相日監督、吉田修一原作)が大ヒットしている。その勢いは止まらず、関連のニュースを見ない日はない。
任侠の家に生まれ、抗争で父を亡くして天涯孤独となった喜久雄(吉沢亮)は、上方歌舞伎の重鎮・花井半二郎(渡辺謙)に引き取られる。半二郎の息子・俊介(横浜流星)と喜久雄は良きライバルとして芸の道に邁進するが、運命はそれぞれの人生を激しく揺り動かす。かつて日本人の愛した芸道物の映画が、吉沢亮、横浜流星といういまを時めく俳優たちの好演を得て令和の世に見事に復活した。
この映画をきっかけに歌舞伎に関心をもつようになった人、また初めて実際に歌舞伎に足を運ぶ人が増えているという。そういう方々に向けて、映画にちなんだ歌舞伎のあれこれについて、思いつくまま知ったかぶりをしてみることにする。歌舞伎を観る前、観た後に「ああ、そういえば」と思い出していただければありがたい。
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