- 半数以上の大学生が利用
- 知らぬうちに「盗作」するリスク
- 教員の「目の奥の知識」が不正を見抜く
半数以上の大学生が利用
学生からの提出物をチェックしていて、思わず笑ってしまった。教科書指定していた私の著書が引用されていたのだが、タイトルはそのままで、著者名が別の有名教授の名前になっていたからだ。ふつうに考えたら、こんなミスをすることはありえない。私は、この学生は生成AIを使用して作成したな、と即座に思った。
2024年10月から11月にかけて行われた、全国大学生協連による全国の大学生への調査結果では、生成AIを利用した経験がある学生は68.2%と半数近くにのぼり、さらに28.9%は継続して利用していた。なかでも利用目的として多かったのは、論文・レポート作成(22.1%)であった。
生成AIの機能を利用すれば、簡単な文章だけでなく、あるテーマに沿ったそれなりの長文が一瞬で書けてしまう。いや、正確に言えば、「書いて」すらいないのに〝創り出せて"しまうのだ。これは学生からしたら、レポート課題などをコスパ(コスト・パフォーマンス)よくこなすことができる、便利な抜け道のようにも思えるだろう。その性能は、法科大学院や、経営大学院(MBA)の授業の試験に受かる水準に達しているとの報告もある。しかし一方で、冒頭に述べたエピソードのように、事実ではない内容が多々含まれる文章が生成されてしまうリスクもあるが、学生自身がそれを理解しているとは限らない。
アメリカの非営利組織「オープンAI」が、革新的な生成AIであるChatGPTをリリースしたのが22年11月だった。その後、高等教育の現場では、生成AIの利用を学生に認めるか否か、認めるとしたらどういう条件でなのか、対応に苦慮することになった。
生成AIの活用は、学術論文の執筆でも、無視できなくなってきている。実際使ってみると、用途によってはとても便利に感じられることが多々ある。一部の論文誌では、生成AIの使用を謝辞欄などに明記することを求めている。「誠実さ」は学術の中核的価値であるとされるが、生成AI利用に関する明確な基準は、現在のところ十分に整備されていない。ただ、生成AIが今後ますます発展することを考えると、完全に無視することはできないという合意は、学術界ではすでになされていると言ってよい。
大学の教育とは、専門的に教育者としてのトレーニングを受けていない者が行う、不思議な世界だ。それが許されているのは、研究の最前線の知見を学生に教えられるからであろう。自分がAIを使ってみての実感・ノウハウを直接教えること。それはAIではなく、人間だからこそできることでもある。大学教員が学生に、単純なレポート課題を課すことはもはや許されない。さりとて、アカデミック・ライティングの訓練をまったくしないわけにもいかない。本稿ではこうしたジレンマに、今現在、大学教員がどのように奮闘しているのかを紹介したい。